帰り道(企画)
帰り道、というのは、帰る場所があるからこその言葉だと思う。
「何してんのさ?」
夕暮れの公園でブランコに座っていたあたしを、兄が目ざとくも発見した。
「帰るよ」
そう宣言すると、兄はあたしの手を掴み、ブランコから引き剥がす。
「やだ」
「もうすぐ夕御飯」
「やだ」
「お風呂おそくなる」
「やだ」
「意地張るんじゃありません」
「お姉ちゃん怒ってるもん」
冷蔵庫にあった姉のプリンを食べてしまったことがばれて、今朝、喧嘩して家を飛び出した。名前書いとかない奴が悪いだろ、とかなんとか兄はぼやいているけれど、あたしと姉は同じ部屋に机があって同じ部屋で寝ているから、姉にそっぽを向かれてしまっては、家にはあたしの居場所はない。肩から落ちるランドセルの革を両手で握って俯いて、あたしはその場に立ち尽くした。やれやれとでもいうように、足もとから伸びる兄の影が肩をすくめる。
「姉貴が待ってんだよ」
呆れ果てたように、兄はささやかな苛立ちを吐き出す。
「帰るぞ」
そして、兄はあたしの手を引いて歩き出した。
帰り道
(そこにはだいすきなひとがいるから、)
一次創作お題企画さま提出
お題/帰り道
作者/さきは(片足靴屋/Leith bhrogan)
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