からかって楽しんでないか?(企画)
甘いものは苦手だ。
そして、嫌がらせのようにキッチンから漂ってくるのは、砂糖と粉と卵が織り成す香ばしいハーモニー。親が出掛けている本日、留守番を命じられたの俺は――俺の親と一緒に出掛けている叔母さんの娘である――二歳年下の従姉妹の子守も頼まれた。そうは言っても、従姉妹は十五歳。むしろ、俺が留守番をほったらかして遊びに行かないように親が見つけたお目付け役のような気がする。
ともあれ、甘い香に巻かれながらリビングのソファで映画を観ていると、ぱたぱたという軽い足音が聞こえてきた。そして、背後から声がかかる。
「ねぇ」
「んー?」
「オーブンが爆発した」
画面を見つめたままの俺に、従姉妹は淡々と衝撃の新事実を披露する。
「はあっ?!」
と、俺は大口をあ開けて従姉妹を振り返った。すると、謎の固形物を口につっこまれる。
「嘘だよ」
口いっぱいに広がる焼けるような甘さに悶絶する俺を眺めながら、従姉妹は満足そうに目を細めた。
「おいしい?」
正直、甘いものは苦手だ。
でも。
この笑顔は。
「おいしいです」
と、無理矢理に口の中のものを飲み下す程度には、俺の眼を奪うに充分だった。
お留守番にお砂糖
(不覚にも、ときめいてしまった……)
俺の隣で、焼き立てのクッキーを頬張りながら、従姉妹は映画を観ている。
さっきのやり取りなどなかったかのようなその態度に、つい、訊いてしまった。
「からかって楽しんでないか?」
従姉妹の返事はない。ものすごく真剣に映画に見入っている。
鼻腔をくすぐるのは、砂糖と卵と小麦粉の混合物がオーブンで焼かれての、お菓子の香り。
やっぱり。
甘いものは苦手だ。
瞬間さま提出
お題/からかって楽しんでないか?
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