氷雨(企画)
吐く息が白かった。
手袋をしていても手がかじかんでいるのが判る。コートとマフラーを装備して着膨れていても、頬や耳は無防備で、痛い。寒いというそれだけのことが、触れたものを切り刻むような鋭さを、大気に与える。
「やっぱりなぁ」
家路の途中の公園で、眉根を寄せることすらできずに空を仰ぐ。学校を出て、バスに乗って、バスから降りる頃には曇天の灰色が景色をすら覆っていた。だから、さくさくと地に刺さる氷雨がいつ降ってきてもおかしくはなかったのだ。
「中途半端」
吸い込む大気は肺を軋ませるし、耳たぶを赤く痛めつけるけど、感覚を失うほどではない。
もっと寒ければ水滴は雪の結晶となって街に舞い降りただろうし、もっとあたたかければ水滴は雨粒として優しく街を濡らしただろう。
傘を忘れてしまった私は、雨とも雪ともつかない冷たさに晒されながら、人気のない公園を歩く。
もうすぐ卒業なのに、進路がなかなか決まらない。いや、決まらないのではなく、決められない。こうした方がいいとされる道と、こうしたいという道が重ならない場合、どうすればいいのだろう。
あぁ、やっぱり、独りは駄目だ。考えないようにしていることに限って反芻してしまう。
「いっそのこと、こんな感覚、麻痺してしまえばいいのに」
さくさくと氷雨が降り注ぐ。灰色の景色に街灯の光がぼんやりと滲む。かじかんだ指先はぎこちなくしか動かないくせに鈍い痛みが消えなくて、白い息を置いてきぼりにして、私はやわらかな氷を浴びることから逃れられないまま走り出した。
氷雨
(先なんて見えないけれど、)
冬の断章さま提出
お題/氷雨
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