きゃんと ふらい




「なんでー!」


ほのぼのと進んでいた一つの船の上で叫び声が響いた


防寒帽の彼は頭を掻いて溜め息を吐いた
そんな彼の足元には小さな女の子が駄々をこねていた


「…だから俺は無理だ」

「なんで?ぺんぎんでしょ?」

「それとこれとは話が違うんだよ」

「なんでなんでー!」

「………はぁ」


なんでこのハートの海賊団に小さな女の子がいるのかといえば、五日前に遡る―――












「…ベポ、お前が隠してるのは何だ」

「あの、えと、その……」


食料調達のためによった島から出た直後、そわそわとしているベポの様子に気付き船長が問い詰めると、大きな身体の後ろから出てきたのはベポの半分にも満たない身長の女の子

見るからに子供が嫌いそうな船長は明らかさっきよりも機嫌が悪くなって顔をしかめている


「船を戻せ、置いてこい」

「待ってキャプテン!せ、せめて次の島まで乗せてあげてっ!」

「シャチ、何で止めなかった」

「す、すんません…」

「戻ったらまた傷付いちゃうよ…」


悲しげに俯いたベポに事情を聞けば、この子は親から暴力をうけていて、現場をたまたま見かけてつい連れてきてしまったらしい


「はぁ…つい、じゃねえだろ」

「…ごめんなさい」

「もういい、ガキ名前は?」

「コノ…」

「キャプテン…?」

「乗ったもんは仕方ねえからな、ただし次の島までだからな」

「ありがとっ!キャプテンっ!」

「おいペンギン、降ろすまでコイツの世話みろ」

「俺がっ?」


いきなり世話係にされ断ることができるはずもなく、コノの面倒を見ることになってしまった










「…はあ」


一日目、二日目は自分からクルーに近付くこともなくこそこそとしていたが、その様子を見て何を思ったのか遠巻きに見ていたクルーたちがコノを可愛がりはじめて、コノの心をいつの間にか開いていた

おかげで三日目には素であろう元気っ子になっていた、正直元気過ぎてついていけない


「どーたの?ぺんぎん?」

「…なんでもない」

「じゃっとんでっ!」

「どうしてそうなるっ!」


つい声をあらげればコノの目にうっすらと涙が浮かんできて、やばいと感じた


「すまんっ、泣くなっ」

「うぅっ…ぺんぎんがおこったぁー…」


慌てて宥めるも時すでに遅し、急いで泣き止まそうとしたとき偶々通りかかった船長
状況を見てすぐさま物凄い形相で俺を睨みコノを抱き抱える

あんた…ベポが最初連れてきたときにものすごく嫌そうな顔してたくせに、いつの間に親バカみたいになってんすか…


「おいペンギン、コノ泣かせるくらいなら一回飛んでやれよ。なあ見たいんだろ?」

「…みたいっ」

「…船長」

「減るもんじゃないだろ?飛んでやれよ」


楽しそうな顔して言わないでください、減る減らない以前に飛べませんから
コノも期待に満ちた目で俺を見るな、その期待に答えられるわけがない



「船長ー?」

「ちっ、なんだ(おもしろいとこだったのに)」


シャチの呼び掛けで船長がいってしまったおかげで何とか解放された、だが下からの輝く目線のせいで下を向くことすらままならない
お前さっきまで泣いてたのはどこ行ったんだ、すごい笑顔だぞ…


「ねー!ぺんぎんっ」


「だからっ…」







きゃんと ふらい

(俺は飛べねえっ)
(そもそもペンギン自体飛ばなくね?byシャチ)






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