薄桃色や薄橙、真白に水色と色とりどりのマシュマロが小瓶の中に完成された立体パズルの如く収められている。控えめな銀とブルーのリボンで飾り立てられた小さな瓶は真っ白な彼によく映えることだろうと口角が緩んだ。二月の寒空など関係ないとばかりに空気を賑わしたバレンタインから早一ヶ月。明日は俗にホワイトデーと呼ばれる、バレンタインと対を成す日であった。毎年抱えきれないほどのバレンタインチョコを貰う彼、雨宮太陽にすれば、意外にも面倒臭がりな一面を持っているためあまり好ましい日ではない。いや、確かに好ましい日ではなかったのだ、一年ほど前までは。


女子の自分に向ける好きという感情のかたちを彼が知ったのはつい一ヶ月ほど前のことである。決して疎いわけはなく寧ろ聡いであろう彼は、しかしそれまで恋愛というものにはこんと縁がなかった。長年の闘病生活ももちろんのことだが、サッカーにすべてを注いでいたと言っても過言でない彼にすれば興味の対象外、考えたこともないのだった。白竜という名の、あるひとりの少年に出逢うまでは。


少年は焦っていた。ふと日付を確認すれば、ホワイトデーなるものがすぐそこに迫っていることに気づいたのだ。あの賑わしかったバレンタインから早一ヶ月。珍しいことに、彼はバレンタインにチョコレートを渡した立場なので本来彼が焦る必要はない。しかし少年の想い人の喜ぶ姿を一度想像してしまえば、実行せざるを得なかった。彼は大変律儀で義理深い少年だったのだ。とても美味しいよ白竜、と自分を見つめ微笑む想い人の姿に一度頷くと、彼は足取りも軽やかにキッチンへと向かっていった。


コツンと小瓶を指先で弾く。僅かな揺れに色とりどりの丸いそれがころころと中で踊った。

「……白竜、くん」

コツン、ともう一度小瓶を弾く。先ほどの揺れでぴったり定位置を定めてしまったらしいそれが再び踊ることはなかった。
遅すぎた初恋の少年の名と共に知らず知らず深い溜め息がこぼれる。遅すぎた初恋だった。ひとの歩く道に影が出来るように、まるで当たり前のようにその少年は白竜の隣に存在していた。初恋は実らないと昔の誰かが言っていたのを思い出す。まったく誰が言い出したのか、仰る通りだと自嘲気味な笑みを口元に貼り付けながら、決して彼のひとに渡ることのないのだろう小瓶をもう一度だけ弾いた。



押し込めた瓶の底



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シュウ白←雨でホワイトデー。本当はラブラブしてもらうつもりだったんだ……私の力では雨白が幸せになれないと言うのか……!





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