▼ ハッピーエンド・カプリッチオ(くら誕!様提出)


マナーにしていたはずの携帯からあいつ専用の着信音が鳴り、ふと目が覚めた。
上手く働かない頭から指示を出された手がもぞもぞと音の出先を探し始めるが、なかなか目的の物へと辿り着けない。

「ん〜……」

ようやく見付けたと思ったら、掴んだ瞬間に音は止んでしまった。
と、すぐに続けて着信音が鳴り響く。
今度は間に合うよう、焦って携帯を開き、通話ボタンを押した。

『もしもし、寝てるとこごめん』
「……あー、どないした?」

寝起きのせいで掠れた声がみっともないが、そんな事より電波に乗せてやってくる彼女の声に胸が高鳴る。付き合ってから幾度となく電話をしてるのに、未だに慣れない。耳から脳に直接響く声に。

『誕生日、おめでと』
「あ、」
『声では一番乗り?』
「……おん、ありがとう」

彼女からの祝いの言葉に単純に喜びを隠せずにだらしなく口元が緩み、見えてる訳がないのに手で隠してしまう。
あー、やばい嬉しい。ほんまこいつかわええ。あかんわ。今すぐ会いたなる。
「良かった〜、メールだけじゃやだったんよー」なんてほっとしてる声に、頭がおかしくなりそうな程好きな気持ちが高まる。
もう今日一日何があっても、例えば謙也にいきなり「お前ハゲた?」って言われてもイラっとする事なく余裕で乗り切れる自信すら湧いてきた。

『それであのな、テニスバッグん中、見てみて』
「ん?」
『ええから、はよ』

テニスバッグ?なんや突然。言葉を返す間もなく急かされて、バッグを開く。そこに、見慣れない箱が一つ。
綺麗に包装されたそれは、手に収まるサイズで、軽く揺すると固い音がする。

『開けて』
「おん」

言われるがままにリボンを解いて、包装紙を開くと、そこには。
ちくたくと心地好いリズムを刻む、腕時計があった。

『改めてもっかい、誕生日おめでと。プレゼント……です』
「……っ!ありがとうなぁ」

思わぬサプライズにちょっと涙出た。あかん。年食うと涙腺緩くなるってほんまやわ。ってまだ十代の俺が言ってるのもおかしな話やけど。
こいつこれ以上俺惚れさせてどないするつもりなんやろ。ばれないように鼻を啜りつつ、手に持った箱をそっと開けて中身を取り出した。
早くこれ着けて会いたい。あいつの照れ臭そうな顔にちゅーして、ありがとうと伝えたい。

「ほんまに、おおきに」
『おん、……で、こっからが本題な!』
「へ?」
『耳かっぽじってよ〜く聞いて』

なぜか鼻息荒い彼女に多少びびる。なんや、一体。


『これからの蔵の時間、私にちょうだい。ぜったいに、幸せにするから』

すー……はー……、とこっちにまで聞こえるくらい大きく深呼吸をした彼女が言った言葉は、まさかの逆プロポーズ。

『……てかこれ普通、立場逆やんな』
「出来れば先に言わせて欲しかったわ」
『やってなんか、先に言わんと負けた気が』
「勝負か」
『……嫁にしたるから、幸せな家庭を築こうね蔵』
「婿にして下さい」

多分、この先これ以上に嬉しいプレゼントはないやろなぁ、と思いながら、「幸せにしたってや」と答えたら、糸が切れたように泣き出した彼女のぐずり声が届いた。

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