わがままオムライス




「テツヤー」



左から名前を呼ばれ、ほぼ反射的にそっちを向く。呼んだくせに彼は机と向き合ったままカリカリと白いルーズリーフに落書きをしている。これは酷い。何が酷いって、絵も相当酷いですが、ルーズリーフに黒板に書かれている文字が何1つないということです。ガングロ峰の文字の横の真っ黒に塗り潰されたへんてこな顔は青峰くんですか?



「………何ですか?」

「オムライス食べたい」



落書きを終えたのか、にっこり笑って件のルーズリーフを寄越してきた。とんとん、と彼が指差す先には 丸い円の中に横長の楕円があって、楕円の中に波線が引かれている。



「これは何ですか?」

「え、何ってオムライスだよ。テツヤってば想像力ないなー」



そういう___くんは絵心がないようですね。オムライスは卵切れてたので無理ですよ、と言いながらイラっとしたからオムライス(自称)の中央に肉じゃがと書いて返した。今日の晩ごはんのメニューだ。彼はそれをまじまじと見たあと、興味が失せたように端に寄せて僕を上目で見た。



「卵買おうよー」

「明日安売りするのが分かってるのに今日買うわけないでしょう」

「でもおれは今日オムライス食べたいの」



ワガママ言わないでよ、とでも言いたげな顔にため息を吐きながら 無理です。とピシャリと言って前を向く。黒板を目で追って まだあまり進んでいなかったことに安堵しつつ、シャーペンを持ち直した。









「とは言ったものの…」



どうしましょうか。

今僕はスーパーの青果、卵売り場に立っている。何故かというと、彼があのあともマインドコントロールする勢いでオムライスと騒いでいたからだ。肉じゃがは明日でも出来るし、彼が笑顔になるなら安いもの、なんて。どうしよう、と言ってみたもののここに立っている時点で僕の負けは決まっている。惚れた弱味ってことですね。

ガサリ、卵を1パック手にとって会計へ向かう。ありがとうございましたーという声を聞きながら店を出た。今日は___くんは確かバイトです。___くんの好きなふわふわとろとろの卵のオムライスを作って待ちましょう。待つのは、嫌いじゃありませんから。








「ただーいま!」



玄関からやけに楽しげな声が聞こえる。見ると彼がふわふわとした笑顔で僕を見ている。彼の笑顔と同じくらいふわふわのオムライスも丁度出来たところだ、帰ってくる時間を計算してた自分を心で褒めつつ、声をかけた。



「お帰りなさい、やけに上機嫌ですね」

「んふふー、賄いでオムライス食べたからねー」



頭が 真っ白になった



「 それは、良かった、ですね」

「うん!美味しかったよー!あんまりテツヤにワガママ言うの、良くないかなって思って」



一歩一歩近づいてくる、成長しましたね、なんて言ってる暇ないですよ僕。あのオムライスはどうしたらいいんですか、肉じゃがなんて作ってませんし、何も出来なくて、でも彼はもう僕の前に立っている。テツヤ?と彼の不思議そうな声が降ってくる。彼がちらりと視線をテーブルに寄越した。ああ、何も見たくない。



「あれ?オムライス…?」



そうですよ、オムライスです。君が、食べたがってたはずの、オムライスです。



「っわー!!ありがとう!!」

「っ?」



ぎゅうっと抱き締められて、ビックリした。その手はすぐ離されて、やったーテツヤのオムライスだー!と言いながら彼はイスに座った。疑問符を浮かべながら彼を見ると、照れ臭そうに笑った。



「賄い、美味しかったっていたけどさー、卵、堅焼きだったの。テツヤのふわとろのオムライスが余計食べたくなってたところだったからさー」



ね、食べていい?

本当に嬉しそうに目をきらきらさせているから、たぶん嘘じゃないんだろう。良かったという安堵と、彼のことは自分が一番よく知ってるんだっていう優越感に笑いながら、僕も向かい側のイスに座った。



「「いただきます。」」



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