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「おや……?どうされましたか?こんな時間に」
「あ……ごめんなさい勝手に外に出て……」
「いえ、謝らないでください。こちらに滞在中は城の敷地内は自由に散策して頂いて構いませんから」
誰もいないと思っていた夜の中庭。
心地いい秋の夜風に吹かれながらひとり歩いていた。
突然後ろから声をかけられ、振り向くと、そこには柔らかな笑顔を向けるジャンさん。
夕闇の中でもジャンさんの端正な顔立ちがハッキリ分かるほど今夜の月は明るかった。
「お月様……、」
「え?」
「部屋から見えたお月様があまりにも綺麗で……外に出てゆっくり眺めたくなって」
「ああ……、今日は満月ですからね」
穏やかに微笑むジャンさんがゆっくりと満月を仰ぎ見る。
2人で夜空を見上げ、同じ月を眺めながらゆったりと時間は過ぎていき。
さわさわと揺れる木々の音。
遠くから聞こえる秋の虫の音。
それ以外に音はなく、私たちも言葉を交わす事なくしばらく満月に見入っていた。
「きゃ!」
突然、左後方から「かさかさっ」という音がしてびくりと体を震わせる。
その拍子に側にいたジャンさんの腕を掴んでしまった。
「あっ…、ごめんなさい……!」
「いえ、大丈夫ですよ。……どうかしましたか?」
「あ……あの茂みから何かが動くような音がして……」
おそるおそる後ろを振り返り音のした方を確認する。
同じようにジャンさんも声を潜めて辺りを伺っていた。
「……何もいないようですね」
「は、い……」
「恐らく、風で植え込みが揺れたのでしょう。大丈夫ですよ、私がついていますから」
その言葉にトクンと胸が小さく音をたてた。
そして腕を掴んでいる私の手を上から優しくなでてくれて。
(ジャンさん……)
たったその言葉で、たったその仕草で心が落ち着き、ふわりと軽くなる。
すると――
そのまま添えていた手を取られ、きゅっと握られた。
「このまま少し散歩でもしましょうか?」
繋いだ手を少し持ち上げて照れくさそうに笑うジャンさん。
「……はいっ!」
思いがけないジャンさんの提案に嬉しくて、抑え切れない喜びが顔に出てしまう。
落ち着いたばかりの心は今度はうるさく高鳴りだした。
「あ!ジャンさん、さっきあっちの茂みから虫の音が聞こえましたよ!あれは……鈴虫かな?」
「ええ、あの可愛らしい音は鈴虫ですね。昔はよくジョシュア様と一緒に虫かごにいっぱい捕まえて飼ってたなぁ……」
「へぇ、そうなんですね。お部屋でいっせいに鳴くとかなりのボリューム音じゃないですか?」
「そうなんですよ、しかもその虫かごをジョシュア様と一緒に運んでいる時に廊下でひっくり返してしまって……」
「逃げちゃったんですか?」
「はい。四方八方に逃げてしまって捕まえるのも大変でしたが、それ以上にメイド長や執事長にこっぴどく叱られました」
その当時の事を思い出しながら、右手で頭を掻くジャンさん。
こうして他愛もない話をしている間もジャンさんの左手と私の右手は繋がれたまま。
リーン…リリーン……
すぐ傍で聞こえる虫の音に耳を傾けようと、どちらからともなく足を止める。
ジャンさんを見上げると「しっ」と人差し指を立て、息を潜める。
後ろには大きな満月。
月の光が私たちを包み込む。
「……この音色はメスを呼ぶ求愛の声なんだって」
「そう……なんですか?」
静かにそう言いながら、ゆっくり、ゆっくりとジャンさんの顔が近付く。
そのまっすぐな瞳に目を逸らすことが出来ず、じっと見つめ返す。
繋がれた掌にきゅっと力が込められ、
「俺には……きみだけが傍にいてくれたら……」
唇が触れる寸前、私の名前を囁いたジャンさん。
とても甘く優しく呼ぶその声が私の全てを溶かしていく。
「ジャンさんの傍に……居たい……」
そう伝えようとした私の返事はジャンさんの唇によって遮られた。
月明かりに照らされながら、2人の影が重なり合う。
20131004