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 役目を終えて意気揚々と帰還したエリーザベトは、厨房に一歩足を踏み入れるなり首を傾げた。何故ならエリーザベトが出て行った時、皆めいめいに担当している仕事をこなしていた筈だった。
 だが今は、手を動かすより口を動かしているように見えるのは気のせいだろうか。
 会場班との兼ね合いもあるので、早く準備を完了させなければと意気込んで来た身としては、完全に出鼻を挫かれた状態に困惑するのも無理は無かった。
 すっかり自分の身の置き所を決めかね、入り口付近で佇むエリーザベト。そんな彼女の姿に気付いたライラは、立ち上がって手を振った。

「あ、エリーザベト!」

 こっちこっち!と手招きをするライラの姿に呼ばれた事に安堵の息を吐き、エリーザベトは彼女達のいる場所へと足を向けた。

「ねえ、エリーザベトはメルヒェンの恋人なのよね?」

 エリーザベトが辿り着くなり、目を輝かせたライラがずいっと身を乗り出してくる。その迫力に思わず半歩下がり、だがそれは確かに事実であったから僅かに頬を染めながら素直に顎を引く。と、

「そうよね〜。あんなに仲良いものね」
「そんな。ライラちゃんだってとっても仲が良いじゃない」

 自分達の間には無い親密さを羨んだのは、一度や二度ではない。そんなエリーザベトの切り返しに、ライラも満更ではないのだろう。嬉しそうにはにかむ彼女の頬は、ほんのりと赤く染まっていて。今その脳裏に浮かんでいるであろう人物をライラ自身がどれ程大切に思っているかが手に取るように分かった。

「あ、そうよ。私、そろそろあちらの準備も整うからと伝えて欲しいと言われたのだけれど…」

 ライラの迫力にすっかり意識の隅へと追いやられていたが、ふと訪れた沈黙に誘われるかのように漸く本来の目的を思い出したエリーザベトは両手を打ち合わせた。その声に、いち早く何かを察知したのはヴィオレットだった。先程まで作業していたテーブルの方へと視線を投げ、次いで慌てたようにライラを見る。

「あ、ライラさん。オーブンの―――」
「え?ああー!!」

 ヴィオレットの声に我に返ったライラは、慌ててオーブンの方へと走って行く。あの様子では完全に話し足りないのかもしれないが、それでも本来の目的を投げ打つまでではなかったらしい。
 勢いに飲まれていたヴィオレットやローランサンにとってはこれ以上無い助け手であったようで。エリーザベトに対し一様に感謝の眼差しを向けていたが、残念ながら話の途中から加わった身としては何のことやら分かる筈も無く、ただただ首を傾げるばかりだった。










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