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『ああ、約束さ』

 エリーザベトの方へ真っ直ぐ伸ばされる手。夢の中で幾度も繰り返されたその光景は、今現実となって目の前に存在していた。


 重ねられた手は、まるでそれが初めから対のものであったかのように何の違和感も無く繋がれた。
 メルツの手の温もりが彼の存在を如実に表していて、エリーザベトの視線が確かめるように繋がれた手に、次いでメルツの顔へと移動する。
 エリーザベトと視線が合った瞬間、緊張の為だろう。それまで痛い程に鋭かったメルツ眼差しが、ふっと緩んだ。

「…メル」

 万感の想いが込められているその囁きに、メルツは頷きを一つ。と同時に踵を返すと、繋がれた手はそのままに、メルツは元来た真白き道を、今度は外へと向かって走り始めた。
 先程まで硬く握り締められていたその手に、今度は何ものにも代え難い大切な存在を掴んで。


 教会の扉が勢い良く外へと開け放たれると、中から黒き青年と白き乙女が揃って飛び出して来る。
 教会の外には、華やかな式典を一目見ようと集まっていた人々が。彼等は、先程メルツが教会に入って行くのを驚きと共に見送り、また再び現れたメルツと共に現れたのが聖女と呼ばれ称えられているエリーザベトである事に気付くと、驚きの声が辺りを包む。だが、人々は2人の勢いに思わず道を開け、呆気に取られたままその様子をただ見ているしか出来なかった。
 そんな人々の視線などものともせず、2人はしっかりと手を繋いだまま、大通りを一直線に駆けて行く。

「お姫さま、きれーね」

 丁度そこに居合わせた幼い少女が母親の服の裾を掴みながら無邪気に笑う。
 周囲の大人が虚を突かれたように少女へと視線を向ければ、2人が駆け去った方向に視線を向ける少女は至極嬉しそうで。

「あのね、ママ。お姫さま、とってもうれしそうに笑ってたのよ」

 良かったね。と、母親に向かってどこか誇らしげに胸を張る幼子に、周囲の大人たちは息を呑んだ。
 幼い子供ゆえに事の重大さが分かっていない、そう言ってしまえばそれまでだったが、そこには子供ゆえに何の柵も無い純粋な想いがあり、先程駆け去った2人の必死さは、日々の生活の中で失われていた強い想いを感じさせた。
 そしてそれは、そこにいた大人達の心を動かすには十分な威力があったようだ。

 だからだろう。大人達は誰とも無く頷き合うと、ある者は駆け去り、またある者は自然に割れてしまった人垣を乱すように通路へと足を踏み出した。

 数瞬の後、教会内より飛び出してきた騎士達の足並みがその人の波によって乱されたのは言うまでも無い事だった。


 幾年もの無意味な歳月が過ぎ、彼女は再び己の生を歩き出す。











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