春、花溢れる箱庭より


君の瞳がスミレに焼けた

椿、山茶花、菖蒲、芍薬、と
庭は華やかに溺れているのに
君は口を引き結んで
何かを訴えんと震えていた

瞳が菫色に燃えている
静かなその灯を
一体誰が消そうというのか
今の君は余すところなく美しい

白いワンピースの裾を握り締めて
君は口を開いた
確かに音を発したのに
コブシの散る音で聞こえない
ボクをねめつけ
必死に言葉を紡いでいるのに
今度はミカンが咲く音に消える

多分それは偶然ではなくて
君の声はボクの耳には届かないのだ
ボクは花の声しかわからない
君の言葉がわからない

でも
溢れんばかりの花に埋もれた君を
いつまでも見ていたいと
僅かでも思ったのは確かだ

例えば
ここに部外者がいなくて
君はその姿から成長することはなくて
永遠に君とボクと花々だけならば
いつか君も花となって
わかりあえるかもしれない
君がなぜこの春色に染まった白い世界で
一人きりでいるのかを理解したとき
君は困惑することなく花々の世話を心から楽しみ
ボクに刺のない話をしてくれるだろう
その時君はボクを愛するかもしれない

風が吹いて
カサカサと花弁が囁きあう
ボクと対峙した君の瞳からとうとうと雫が流れ始める
ボクには何もできなかった
光を失っていく菫の焔を
黙って見ていることしかできなかった
縫い付けられた口が憎い
腹に詰められた藁が憎い
地面に刺さった足が憎い
ボクがもし
もしも役に立たない鳥避けなんかじゃなく
君と同じ人だったら
君に笑顔を与えられたら
…嗚呼。



春、花溢れる箱庭より



君の後ろで木が揺れる
はらはらと桃色が落ち始めた
君は目を見開いて
さ、く、ら、ふ、ぶ、き、と口を動かしたけれど
その笑顔を見つける前に
君は桜の欠片の中に消えていってしまった


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

120214
企画サイト:fish ear
「わたしに見えるもの」



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -