□ほんの少し

















「あれ、アルはぁ?」

『お仕事よ。夜の大切なお仕事』


アルはいない。

あのエクソシストに会いに行っているから。


『(夜しか自由にしてあげられないもんね…)』


――アル

あなたは今、幸せですか?








「――…神田様」


隣に座る黒髪長髪のエクソシスト。

月夜が綺麗な今日、またあなたに会うお約束が出来て嬉しかった。

夜風が頬をなぞる。

冷たく感じる風は、なぜか優しい。


「(…不思議)」


昔の記憶、人間だった記憶は無い。
アクマになってからも、レベル1初期の記憶は無い。
ようやく積み重なって来た私の記憶。

その記憶はどれも幸せで一杯で。

全部が全部、愛おしい。

私の記憶には全てカーティス様があり、ついて離れない大切な人。

こんな感情がアクマにも目覚めるなんて思わなかった。
愛おしいくらいに思ったり、大切だと感じたり、

ましてや

ヒトを好きになるなんて

思いもしなかった…。








「どうした」


彼は私の顔を覗き込み、不思議そうな顔をする。

私はいいえ、と言って返すだけ。

優しい沈黙が流れる。
ああ、こんな他愛のない時間さえ愛しくて離したくなくてにぎりしめていたいのに。



どうして私はアクマなのだろう。

どうしてあなたはエクソシストなのだろう。



切ない気持ちが、あなたといると積もり行く。

人間だったら良かったのに。
何度も何度もそう思った。

好きなヒトに嘘をついて私は、あなたの隣にいます。
突き放されないようにと、必死に縋り付きながら。


「神田様…」

「…何だ」

「……何でも、ないです」


どうか願わくば

あなた様が死なん事を…――




*****




「遅いねぇ、アルぅ〜」

『仕方ないよ。私が無理矢理行かせたんだから。もう少し遅くなるかもしれない…』

「主人のカーティスを置いてどこ行ってんだよぉ…。アクマのくせにぃ」

『そんな事言わないの。アルの帰りは遅くなりそうだから、先に一緒に寝てよう、ロード』


ベッドに潜り込み毛布をかける。
大人しくベッドに入ったロードは、横になったカーティスの腰に手を回しギュッと抱きしめた。


『?どうしたの?ロード』

「…」


ギュッと握り締めて離さないロード。


「…許さない」


更にカーティスの服を握り締め小さく呟いた。


「…アル、許さない。カーティスの頼みだからってこんなに遅まで出掛けて…」

『ロード…』

「カーティスは半覚醒なんだよ!?それを守るのがアルの仕事なんだよ?
カーティスを守って側に居て、それがアルを強くした本来の理由なんだからね?」


それを放棄するのか?

だったら僕はアルを許さない。

だったらアルなんかいらない。

半覚醒なカーティスを守るために造り上げたアクマが主の側にいないなんて、なんて、なんて無礼な。


「アルなんかぶっ壊してもっと従順な新しい奴を付けようよぉ。それでもダメなら僕がずっとついてるからぁ」

『ダメよ…。アルは私のために戦ってくれるの。だからアルは何にも悪くない。
それにロードには学校があるでしょ?』


私のわがままだから。


『アルの事は嫌いにならないで…邪険にしないであげて…』


私のせいだもの、あの子が今まで心がなかったのは。


『…お願い』


あの子はやっと、やっと人間になれそうなんだから。

ようやく自分というものを見つめだしているのだから。

人間になって、アクマだということを忘れて、大切なヒトの元に居てほしい。

散々私のわがままを聞いてくれたアルだから

わたしは、アルに人間になって欲しい。



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