□芽から蕾へ











主人の命に背いた罪悪感。

仲間を見捨てた罪悪感。

全てが私を覆い尽くす。




「ただ今戻りました…」

『お帰り、アル!』


カーティスは笑顔でアルを出迎える。


『早かったね!大丈夫?怪我はない?』


アルをあちこち見渡して怪我の有無を確認するカーティス。アルには傷がないことに一安心していた。


『良かった…何ともないみたいね』


良かった。

どうやらアルはエクソシストに攻撃されなかったみたいだ。

無事に帰って来てくれた。


おかえり、とカーティスは微笑みアルの顔を見ようと覗き込むと…



『……え?』


カーティスは目を丸くし固まってしまった。
アルは何が起こったか分からずただカーティスを見ている。


「どうなさいましたか、カーティス様?」


未だ固まっているカーティスを解くようにアルはカーティスの目の前で手を振ってみた。

すると漸く呪縛から解かれたようにカーティスははっと目をアルに合わす。


カーティスは目を丸くする。


『…アル…』

「…? はい」

『顔、赤い…』


アルの顔はこれまでにないくらい赤に染まっていた。


「ぇ、あのッ!これは…!!」


アルは赤くなった顔を手で覆った。


『…どうしたの?まさか、エクソシストに…っ!?』

「いえっ、これは!」


…違うんです、これは…
何から話していいのか分からない。


「…すみません…」


まずは、そこであった事実を。


「助け、られませんでした…」


何もせずに帰って来た事。


「あと、少しだったんです…」


邪魔が入った事。


「…できま、せんでした…」


あなたの敵であるものを始末出来ず、見逃してしまった事。


「……すみません…」


後悔。

けれど、どこかでほっとしといる。

あの人を殺さなくて良かった、と。


『…アル』


カーティスはアルの顔をずっと凝視している。眉間にシワを寄せるでも無く、ただじっとアルの顔を見ている。


『…アル、あなた…』


その口から出たのは衝撃的な言葉だった。




『恋、したのね?』





その言葉の意味が、始めはわからなかった。

けれど、冷静にその言葉を自分の頭の中で繰り返しエコーがかけられると、やっと理解した。


「いッ、……ち、違っ…あの…!!」



アルのそのあわてふためく様子が、カーティスの確信へと繋がったのは言うまでもない。


『…本当に、恋…したのね…?』


カーティスはゆっくり、アルの顔を見て言った。


「カーティス様!?あのっ!誤解です、これは…!!」

『アル……』


その顔は怒っているのか、喜んでいるのか分からない。
無表情にアルを見て、信じられないと眼を見開いている。

アルはただ、慌てて弁解をする。
敵を生かして返してしまった事を悟られてしまったのだろうか。


そんなアルを落ち着いてみているカーティス。




『おめでとうアル!恋をしたのね!!』

「…え?」




カーティスは喜んでいた。

アルが恋をしたと喜び、嬉しそうに微笑んでそう言った。



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