□露骨なまでの煩悩で抗う







姉さんは死んだ。

姉さんによって生かされたこの命。姉さんがいない今、俺の命も、もうそろそろだろう。

残り少ない命は、姉さんを殺したあの妙な物体を破壊する事で敵討ちをして行こうと思う。


これは自己満足の域。
仇討ちで膨らむ、憎しみ。

そんな負の感情が世界を救うなんて、皮肉なものだな。





02.露骨なまでの煩悩で抗う





俺とこの世を結ぶのは、姉さんの敵討ちという名の憎しみ、執念だけ。

その執念で抗い続ける。
憎しみと、共に。

生にしがみつきはしない。しがみつくほどの価値はこの世にはない。
敵討ちと破壊。それらはイコールとして結び付くものでもない。それは分かってる。ただ、死ぬ寸前まで俺は憎しみに取り付かれたままなのだろう。


「君はこれからエクソシストとしてアクマと戦っていく事になる。だけど君はまだイノセンスを十分に扱えるほどの力、シンクロ率を持っていない。

そんな状態で君に戦わせる訳にも行かないから、これから修行をしてもらうよ。でも一人でじゃイノセンスを扱うのは難しいかもしれないから、誰かの元でイノセンスの扱い方を教わらなければならない。

…ということで、君には戦いを学ぶべき元帥が必要だ」

「元帥、ですか」


そうだよ、と室長がニコリと笑いかけた。

確かに、此処に連れてこられたといっても、俺はイノセンスなんてものを知らない。ただ、あの変な物体を壊すことが出来るということしか知らない。
それ以外知らなくて十分だと思っている。

壊すことが出来れば良い。
理屈なんて俺にはいらない。

戦場で感情任せに戦えば、死期は速くなる。注意が散漫になるからだ。
生に無頓着な俺にとっては、力をつける為の修行なんて特にいらないと思っているし、守ってやる程の命も俺にはない。


「…アキラ君」

「何ですか」

「アクマには強さにレベルがあって、それはどれ程の力なのかはまだ知られていない。そのアクマと戦うには強さが必要なんだ。分かるね?」


諭すような目をして、室長は肩を叩いた。


「生きることに執着できない人間が、死んだ魂の兵器と戦えるとは思えない」

「…だから、何です」

「アクマが憎いのは分かるよ。憎くて憎くて仕方ないのは分かる。でも憎しみを向ける矛先を投げ出してはいけないよ。
…今の君は矛盾だらけだ」


今の俺か。
憎くて仕方ない。破壊したい。この俺から姉さんを奪った奴が憎くて仕方ない。

しかし、敵討ちだと臨んでも、姉さんのいないこの世界で生きる価値を見出ださない。

確かに、矛盾だらけだ。
それを分かってやっているのだから、余計可笑しい。


「なら強くなります」


この言葉を、室長はどう受け止めたのか大体予想は着く。穏やかに笑ってそう、と言っていた。
大方、生きる希望を少しでも持ってもらえた等と思っているのだろう。この擦れ違いもまた、面白い。
勝手に喜んでいればいい。
その期待を打ち砕いてしまえば良いのだから。


「憎しみで強くなれるというなら、いくらでも憎みますよ、強く、強くね」

「そういう意味じゃ…」


分かってる。
室長はまた、俺が勘違いしていると思い顔を青くしている。


「生きる意味が分から無くても、強く憎しみを持っていれば、嫌でも生に執着しますもんね。全てを破壊し尽くすまではって」

「違うよ、アキラ君」

「凄いですね、室長は。生に執着させる言葉を知っているんですね。俺を納得させてしまうんだから本当に凄い」


上辺だけの話を続ければ、室長は違う違うと首を振る。

…そんなに首を振ら無くても分かってるよ。分かってて言っているんだから。



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