□韋駄天の駆け往く無限回廊










去っていく月日は取り戻せない。

そんな事は誰だって知っている。
ただ、それを受け入れるか受け入れないかで分かれ道が出来て来る。

どの道に進むかの分かれ道。
悩みに悩み、結局今まで通りの同じ道を進んで行くのか、新たな道を自ら切り開きを進んで行くのか、どちらの道を選ぶかは自分次第。

その二択でいうなら、
どちらかと言えば俺は後者だった。






01.韋駄天の駆け往く無限回廊






「…黒の教団、か」


見上げた建物は薄気味悪いというのが第一印象。高台にそびえ立つその姿はまるで悪のよう。だがそれはあまり気にならない。そこまで気にしなければならないほどのものでもないからだ。

外観を眺めて趣味の悪さに少し引いたが、文句も言ってはいられない。
自分はこれから此処で世話になる。とりあえず建物には慣れなければ。


「ごめんください」


門に向かい、戸を叩いて中に自分の存在を知らせる。一度だけでは気付かなかったのだろうか、二度目の声に返事が帰ってきた。


〈箭埜昴君だね?待っていたよ。じゃあそこの門番でスキャンを一応受けてもらえないかな〉

「…門番は見当たらない」


キョロキョロと辺りを見渡してみるが、誰もいない。薄暗い夜が広がっているだけで、人っ子一人いやしない。回りには一つ目の妙な蝙蝠が飛び交うだけ。


〈門番なら目の前に居るよ〉


だから、誰もいないといっているのだが。
……と思ったら、居た。

確かに目の前に居た。壁にめり込んで…、というか壁そのものが門番。顔だけが門番。やはり此処は妙な所だ。
そんな妙な所にこれから身を置く自分も妙な人間に入るのだろう。今日から自分は一般人を辞めるのだ。


だみ声が聞こえたかと思えば、目の前の門番が一生懸命こちらを見て変な光線を放ちはじめた。その光に少し眩しさを感じ、イラッとした。それが顔全面に出ていたのだろう。門番は少し怯んだように見えた。


〈判定終了。異常無し!開門〜〉


壁そのものの門番の検査を終え、開門されるその向こう側に足を踏み入れる。


〈ちょっと待ってちょっと待って。今案内人をそちらに向かわせたから〉

「…いらん。さっきから鬱陶しいくらいに着いて回ってる蝙蝠に案内させろ」


そう言って勝手に中へと進んで行く。そういう訳にはいかないのだが、と言う声だけの男。無視し続けて進んで行くと諦めたのか一匹の蝙蝠が側に着き案内をし始めた。
とりあえず向かうのは此処のお偉いさんのところ。手続きやら何やらをするのだろうかと予測を立てて蝙蝠の後について回る。

通路を歩いている間、絶えず話し掛けて来る蝙蝠。どうやらこの一つ目の蝙蝠はスピーカーが着いているみたいだった。その蝙蝠に向かって返事等をして相槌を打っていると、いつの間にか着いていたようだ。
蝙蝠から聞こえていた声の主が目の前に立ち、軽い自己紹介が始まる。

目の前にいる長身の男はコムイ・リーといい、この組織の室長という職務をしているらしい。一応偉い立場にあるようだが、先程から部下達が「仕事してくださいよ」とぼやいているため、そこまで自分は偉いんだぞ、と踏ん反り返っている訳ではなさそうだ。


「ようこそ!箭埜昴君。はじめまして。これから僕達黒の教団とともに戦おう」


そして俺はこの組織に入り、エクソシストという役割を任される。

エクソシストとは千年伯爵により生み出された悲劇の産物、アクマという悪性兵器を破壊できる唯一の存在らしい。そしてそのエクソシストの数はまだまだ足りないらしく、一人でも多く仲間が欲しいという状況だった。


「分からないことがあったら聞いてくれて構わないからね」

「はい」


13歳。
その歳、俺は唯一の肉親から離れこの組織に足を踏み入れた。





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