酩酊ユーフォリア
リーマンパロディ

「! ちょ、待った……っ」

カチャカチャとベルトのバックルを外す音にはっと目を瞠り、天子は彼の腕を掴んで止める。火野も強引に暴き立てるようなことはせず、指先だけを器用に動かして尋ねた。

「てんこは待てるの?」

「あ、ぁ……っ…」

つつーっと下肢の膨らみを悪戯にたどる指に、思わず腰が浮きかけた。脚を動かせばくぐもった水音がくちゅりと服越しに耳をくすぐり、頬がカッと熱くなる。
火野ももちろん聞こえているだろう。スラックスを下着ごとずるりと脱がされ、制止の声もそこそこにじっと中心を見下ろされて、頭の中が焼き切れそうになる。

「ち、がっ、いつもは、こんなんじゃ……っ」

外気に触れる冷たさで、恥ずかしいほど濡れそぼった有り様が感覚的にわかる。このタイミングでは何もかもが言い訳にしか聞こえないと承知していても、少なくとも自分で処理する際にここまでひどかった試しはないのだから言わずにはおれない。ただ裸を見せるだけならいざ知らず、こんな『めちゃくちゃ興奮してます』な体を晒すのは天子とて耐えられない。

「んっ」

触れるだけの口づけを落としてから、火野が嫣然と微笑んで囁く。

「かわいいね。糸引いてる」

「っ! だ、だからいつもは……っぁ、あっ」

先走りに濡れたものをやんわりと握り込まれ、堪えようのない快感が襲ってくる。大きな手で緩く扱かれるだけでもビクビクと腰が跳ね、蓄積されてきたものが今にも瓦解してしまいそうだ。

「ふふ、嬉しいな。痛いことはしないけど、痛かったら言ってね?」

「んぁっ、ぁ、や……っ…」

指の腹で敏感な先端を優しく抉られて、とぷりと滲んだものを塗り広げるように包み込まれる。力加減に差はあれど、やっていることは自慰とさほど変わらないのに、愛する人が触れていると思うと腰から下がとろけそうなほど気持ちがいい。
嬌声を抑えることも叶わず、的確な指の動きに翻弄されるがまま、ゆったりと高みへ導かれる。

「汚れるから脱いじゃおうか」

スラックスを膝まで下ろして片足から引き抜き、天子の両膝を立てて押し開く。脚の間に自分の体を入れ込んだ火野は、天子へ覆い被さるようにキスを落としてきた。
唇、首筋、胸元を通って、尖った乳首にそっと吸いつく。薄く筋肉が乗った腹部を過ぎたところで、天子の慌てた声が上がった。

「そ、っちはぃやだ……っ」

「さぁ、そっちってどこのことかな」

抵抗を揶揄でさらりと流し、火野が内腿に優しく歯を立てる。際どい場所を噛まれた後は舌で舐められ、芯を持ったものがぴくぴくと小刻みに揺れた。天子は滲む涙を乱暴に拭うと、震える手のひらでおずおずと中心を覆う。

「そんなにイヤ?」

火野が小さく吹き出した。本気で嫌がってないことはわかっているくせに、たちが悪い。

「きたねえ、からっ……」

日中の汗やら何やらが染み込んだ体の中でも一、二を争うレベルで不潔な部位だ。いくら理性が飛びかけていようが、下肢が疼こうが、はいどうぞと素直に差し出せるわけがない。初めての経験でこちらはいっぱいいっぱいなのに、味だの匂いだので引かれたらみっともなく泣いてしまいそうだ。
へえ、と火野は薄く笑みを浮かべて頷くばかり。

「じゃあてんこは、僕の舐めたりできないんだ?」

「は!?」

直接的な物言いに唖然とするも、天子はばつの悪そうな顔で口ごもる。

「いや……それは」

それはたぶんできる。
できるかできないかの二択なら無論できる。
やれと言われればやるし、やれと言われなくてもやっていいならやりたい。

「…させてくれるんですか」

「ん? ああ、そのうちね」

曖昧にはぐらかすや否や、ぺいっと天子の手を引っぺがして顔を埋める。焦って止めようとした声は見事に甘さを帯びた。

「んっ、ぁ……っ」

ぬるりと這わされた舌は熱く、弱い裏側を何度となく行き来する。募る快感に耐えるべく、思わず両脚でぎゅうと火野を阻めば、痛いよと苦笑しつつ内腿を押しやられた。

「っん、ふ、ぅう……っ」

甘ったるい飴菓子を舐め溶かすような愛撫に、足指をきゅっと丸めて堪える。先の窪みを尖らせた舌先でくりくりと刺激され、分泌した蜜の雫を舐め取られた。頭の芯がぐらつくほどの快楽と羞恥に苛まれ、せめて顔だけは見られまいと腕で覆い隠すが、己の視界を閉ざしたことで刺激がもう一段階上がってしまう。
あれほど拒んでおきながら、こうもあっさりと陥落しては形無しだ。けれども体はもうのっぴきならないところまで追い詰められていて、吐き出せない熱が腹の奥でぐるぐると渦巻いている。

「こっちの方まで濡れてる」

「んっ、ぃや、だ………っ!」

根元からつつっとたどり下りた指が、さらに奥――誰にも触れられたことのない蕾をくるりと撫でる。きつく閉じられたそこを濡れた指先でつぷつぷとノックされ、天子は瞬時に身を固くした。

「いきなり入れたりしないよ」

「や……っ」

ちゅ、となだめるように中心へ唇を落とされ、不快感は一瞬で甘怠い快感の内に埋もれていく。

「ゆっくり、ね」

「っは、んん……っ」

ゆるゆると後ろを探る指は残したまま、張り詰めたものを上下に摩擦される。根元から先端にかけてをきゅっと絞られ、唯一の熱の逃げ場は彼の口腔で塞がれて。

(ち、くしょ……っ)

男のどこをどうすれば感じるかは天子だって十分理解しているが、火野の技巧は『理解』の範疇を明らかに越えている。その経緯を思うとやり場のない怒りが沸々と湧き上がってくるので、かぶりを振って想像を打ち消した。

「何考えてるの?」

「ぁっ、あ……!」

しなやかな指先が、集中しろと言わんばかりに後ろの入口をぐりぐりと抉る。断続的に滴り落ちてくる滑りに任せて無理やり貫かれてしまいそうで、指の出入りを拒むようにそこが締まった。
初々しい反応に火野は笑みを覗かせ、たらたらと先走りを溢す熱の楔に再び舌を這わせる。

「っ、ん、ぅあ………っ!」

程なくして薄い唇に中心が呑み込まれ、反射でビクンと腿が揺れる。舌がねっとりと絡みついてくる中、そのまま奥でじゅううと甘く吸い付かれて、がくがくと奔放に腰が跳ねてしまう。

「ぃ、やっ……ぁ、もう、いぃ……っ」

唇で扱くように幾度も抽挿を繰り返されると、塞き止めきれない熱がぐんぐんと下腹部を上り詰めてくる。触れられれば否応なしに反応する箇所を、愛する人がこうも熱心に育てているのだ。先端を舌先で執拗につつかれ、じわりと新たな涙が浮かぶ。
震える片手をぼやけた視界へ伸ばし、彼の髪をくしゃりと掴む。余裕のない訴えに恥じらいがなかったと言えば嘘になるが、彼の口を吐精で汚すことだけは避けたかった。
火野はようやく顔を上げ、濡れた唇を軽く拭って天子と視線を合わせる。とろんと熱っぽく溶けた瞳は欲の色を灯し、さらなる交わりを望んでいるように見えた。荒く息をついた天子へ覆い被さり、普段の鋭さの欠片もない目元にキスを落とす。

「我慢しなくてもいいのに」

「ぁっ……!」

手のひらが体の中心線を優しく撫で下ろし、濡れそぼったものにそっと触れる。包み込んだままくちくちと水音を立てたのち、するりと下りた指先が狭間で止まった。

「ひ、っ……」

己が溢したもので十分に潤された入口は、彼の指で何度となく擦られ、徐々にひくついてくる。くすぐったかっただけの場所が、刺激を受けるたびにきゅっと収縮するのがたまらなく恥ずかしい。
蜜を塗り込めるようにくるくると周りをたどっていた指が、窪みに宛がわれるなりつぷんと静かに入り込む。

「や、だ…っ………」

生理に逆行した、耐え難い異物感。愛する人の一部だとわかっていても、体は侵入を拒まずにはいられない。
きつく閉じた窄まりをゆっくりと抉じ開けられ、脚をばたつかせればソファがか細く軋む。火野がふと動きを止めた。

「ん……っ」

濡れた唇が触れ合ったような音を立てて、浅く埋まった指が引き抜かれる。和らいだ不快感に天子がつい安堵すれば、火野は笑いながらしっかりと釘を刺した。

「やめてあげるわけじゃないからね?」

「う……」

肌を預けておきながら、諦めてくれたらいいのに、と都合よく期待していた天子の心を簡単に打ち砕いてくれる。余韻に小さく震える体を抱き起こして彼は続けた。

「ここじゃやっぱり狭いね」

ソファの座面をつつっとなぞる指。赤みの残る耳に、柔らかな吐息が触れた。

「ベッド行こうか」



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