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「もう、帰るのか…?」


そろそろ帰りますね、と笑顔で告げたなまえに、三成は思わず問い返した。
まだ陽が長い時期とはいえ、空はすっかり茜色に染まっている。
送って行こうとすんなり口に出せなかったのは、やはりなまえに帰って欲しくないという気持ちが強かったからだろう。
立ち上がったなまえを引き止めるように彼女の細い手首を掴んだまま、三成はじっとなまえを見つめるだけでその先の言葉を紡ぐ事はなかった。


「明日もまた同じ時刻に参りますから」
「そう、か…」


なまえからの返答に、三成の手がなまえの手首をするりと離す。
手を離すのと同時に三成の視線もまたなまえから逸らされたため、柔らかな髪で彼の表情までもが隠れてしまう。
からかうつもりはもちろんないのだが、甘えを見せる三成が新鮮だったなまえは、拗ねたようになまえから目を逸らす三成を抱きしめたい衝動に駆られた。


「三成様」
「…なんだ」
「もし三成様さえよろしければ、今日はお傍に居させていただけますか?」


膝を折り、三成の傍らでにこりと微笑むなまえに、三成は一瞬言葉を失った。
嬉しさを噛み殺して腕組みをすると、三成はなまえから顔を背けたままで咳払いをしてみせる。


「まぁ…お前が留まりたいのなら、俺は止めんが」


そっぽを向いたままでも、三成が照れている様子が良く判るなまえは、嬉しさからそっと三成の方に頭を凭れ掛けた。
一瞬ためらいながらもなまえを抱き寄せてくれる三成の行為が嬉しくて、なまえはその勢いでぎゅっと三成に抱きついた。
ふう、と耳元に漏れ聞こえた溜息はどこか嬉しそうな響きを含んでおり、その幸せな溜息同様、三成がなまえの頭を撫でた手はとても優しく慈しむようになまえに触れる。


「まったく…最初から帰るなどと言わねば良いものを…」
「だって、毎日帰るのが常ですもん。今日に限って帰らないというのもおかしいですよ」


でも、三成様にあんなふうに引き止められたら、誰だって帰りたくなくなってしまいます。
頬を緩ませながら三成に身体を預けるなまえに、またしても三成は言葉を失った。
甘え下手な自分を巧みに甘えさせてくれるなまえは、何より居心地が良い相手である。
眩しいくらいに愛らしい笑顔を向けるなまえをふわりと抱きしめながら、三成は再び幸せな溜息を零すのだった。



きみがすき



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