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「ねぇなまえ、俺ってどんな柄の浴衣が似合いそう?」
「浴衣、ですか?あの…何にご入用なんですか?」
「えぇ〜決まってるじゃん、祭りがあるんだよ祭り!」


つい一刻ほど前の会話は何処へやら。
なまえは今、着せ替え人形よろしく半兵衛にあれやこれやと着替えをさせられていた。
こっちの柄が似合いそうだとか、帯はこの色がいいだとか、髪飾りや小間物までもがめまぐるしく変えられる。


「あ、ねぇなまえ、次はここに来て座ってね。化粧もしちゃうから」
「あの…でも半兵衛様の浴衣は…」
「俺のは別に何でもイイんだってば。それよりも早く化粧しちゃうからさ、早く座って座って」


すっかり振り回されながら半兵衛と差し向かいで座ると、途端に半兵衛の眼つきが変わったような気がした。
不意にドキリと音を立てた胸をこっそりと押さえつけながらじっとしていると、真剣な眼差しの半兵衛が懐から紅を取り出した。
す…と顎を掬い上げられ、半兵衛の右人差し指に乗せられた紅がなまえの唇へと色を移す。
段々と煩いくらいに脈打ち始めた心臓の音が、半兵衛に聞こえてしまわないかが心配になった。


「なまえ」
「は、い…」


顎を支えていた半兵衛の指が、するりとなまえの頬を撫ぜる。
きりりとした表情が一変、いつもの柔らかな笑顔に変わると、半兵衛はうん、最高に可愛いよ、となまえに微笑みかけた。


「ね、祭りに行く前にみんなに見せに行こうよ。俺の手でこーんなに可愛くなったんだって自慢したいな」
「あの…」


反論するよりも早く、足取りの軽い半兵衛に手を引かれて部屋を出た。
あちこちをふらふらしながらなまえを誰彼構わず見せびらかす半兵衛に、なまえは恥かしさでいっぱいだった。


「あ、官兵衛殿。ねぇ見てよなまえのこの姿!俺が着付けも化粧も髪も全部整えたんだ」
「官兵衛様…あの、すみません…」
「なんでなまえが官兵衛殿に謝るの?いいじゃん、可愛く変身したなまえを見せびらかしたいんだから」
「……卿は判って居らぬようだな」


にやりと含み笑いを見せる官兵衛に問いかけるより早く、官兵衛はやれやれとでも言いたげな大きな溜息を吐いてみせた。
なまえの手を取ったままの半兵衛はといえば、まさに知らぬ顔を見せるばかりである。


「男がそれほどまでに女の身なりを整えてやる、その意味を卿は判っているか?」
「あの…」
「半兵衛は、卿を我が物として触れ回っていたというわけだ…」
「そっ!だから官兵衛殿も、俺のなまえに手出しは無用!ってね」


なまえは俺だけのものだから。
にやりと笑った半兵衛の笑顔があまりにもふてぶてしくて、思わずなまえの顔がふっと綻んだ。
愛され過ぎて、胸がいっぱいである。
ご機嫌な足取りの半兵衛に手を引かれながら、なまえはそっと半兵衛の手を握り返したのだった。



その唇で口付けて


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