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「…あかん」
「あの…私、なにか龍司さんの嫌なこと…しちゃいましたか」


彼の口からこの言葉が漏れたのは、もう何度目になるだろうか。
個室で二人、食事を楽しんでいたはずなのだが、いつの間にか龍司の饒舌が止まったのだ。
会話の途中、龍司は時々じっとなまえを見つめては、あかんと口にして暫し黙る、を繰り返していた。
それが何度か続いたので勇気を出して問い質してみたのだが、口元に手を当ててフイとなまえから目を逸らした龍司はなかなか口を開かなかった。
だが、気分を害すようなことをしてしまったかとオロオロしているなまえに気付くや否や、ちゃうちゃうと龍司は慌てて否定と共になまえに向き直った。


「なまえがあかんのやないで、せやからそんな顔せんといて」
「でも、あの…」
「あー…その、アレや。ちゃうねん、アンタがその…」


そこまで言って、はぁと大きな溜息を吐いた龍司はがっくりとうな垂れた。
その拍子に龍司の右手に握られていたグラスの中の酒が、溢れそうなほど大きな波を打つ。
あかん、と再び小さく漏らす龍司に、なまえはちょっとだけにじり寄ってみた。
彼が下を向いて呟いた声を、もっと良く聞き取ろうと思ったからだ。
しかし、ソファに座った互いの膝同士がちょんとくっついた瞬間、ガバッと龍司が身体を起こしたので、なまえは思わず身体をびくりと竦ませた。


「…ホンマにあかん、」


なまえを見つめた龍司がその一言を口にしてからは、あっという間だった。
グラスがテーブルに置かれたと同時に、龍司の反対の手がなまえの後頭部に回されていた。
現状を理解するひまなどはもちろんなく、急激に距離を縮めた龍司によってなまえの唇が塞がれる。
なまえが状況を理解したときには、重なり合った唇を割って龍司の舌先が侵入を果たしていた。
優しく巧みな舌技に翻弄されて、なまえの息は徐々に上がってゆく。
時々漏れる自分の吐息が驚くほどに甘ったるく耳に響き、戸惑うよりも先に心地よさに身体が熱くなるのを感じながら、なまえは抵抗することすらも忘れていた。
咥内がかき乱され、舌先が絡み合う。その都度音を立てる粘質な水音が、なまえの羞恥心を煽った。
口付けが止まぬまま、なまえを気遣うように優しく背中に回された大きな腕が、広いソファの上になまえを横たえさせた。
視界いっぱいに龍司の金色の髪と天井が映し出され、そこでようやくなまえの唇は解放されたのだった。


「スマン、辛抱でけへんかったわ…」
「龍、司…さん」


ソファに倒されたまま弾んだ呼吸を整えていると、なまえの胸の上に龍司の頭が乗せられた。
なまえの呼吸に合わせて上下する龍司の金色にそっと手を伸ばしてみると、なまえの手は簡単に龍司の手に絡め取られた。
頭をなまえの胸に乗せたまま、龍司は掴んだなまえの手のひらに触れるだけの口付けを落とす。
そして手の甲、指先と口付けると、互いの手を絡めるように繋ぎながら、重たそうに頭を持ち上げた。


「ホンマにスマン…」
「あ、の…」
「せやけど、惚れとんねん。ホンマに」


嫌やったか?と問う低音に、なまえはふるふると頭を振っていた。
龍司の目がとても愛おしそうに自分を見つめているから、なまえには最初に抱いた龍司への恐怖心など当になくなっていた。
嫌ではない、と控えめながらも意思表示をしてくれたなまえに、龍司はにっと口角を上げて笑って見せる。
軽々となまえを抱き起こし、龍司はそのままなまえを抱きしめた。
自分とは違う、華奢で柔らかななまえの身体を全身で堪能し、龍司は彼女の耳元に『大事にするわ』と囁くのだった。




0ミリの距離



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