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『好き』や『愛してる』なんて言葉じゃなにも足りないのではないかと感じることがある。
こんな言葉で、この気持ちが伝わるのだろうかといつも疑問に思う。
御剣怜侍という人は、それでも『好き』や『愛してる』の言葉に、なまえが思う以上に反応を示す。
言葉を詰まらせたり、頬を染めたり、あからさまに動揺したり。
その一言をメールで送れば、それまでどんなにテンポ良くやり取りをして居たとしても、返信を軽く一時間以上待たなければならない。
それでも照れながらも精一杯応えてくれようとする文面が嬉しくて、なまえはついつい『好き』や『愛してる』を送ってしまう。

なまえは報告書に目を通す御剣の姿をじっと見つめた。
真剣な眼差しも、ヒラヒラの服も、何時もと何も変わらない。
それでもなまえは日を追うごとに御剣への気持ちが募るのが止められなかった。

「怜侍さん」
「ム…?」

視線を外さずに返事をする御剣に、なまえが近付く。
デスクを挟んで向かい側に立つと、「怜侍さん」ともう一度彼を呼んだ。

「私、怜侍さんのこと好きじゃないんです」
「……」
「多分、愛してるも違うと思うんです」
「それは……どういう意味だろうか?」

驚くと同時に寂しげな顔でなまえを見つめる御剣の目には、何故か幸せそうに微笑む彼女が映った。
沈んだトーンでなまえに真意を問う御剣は、報告書を置いてなまえと向き合う。

「私の気持ちは、好きとか愛してるじゃ伝わらないくらい怜侍さんへの想いでいっぱいです、という意味です」
「そ、れは…つまり……」
「つまり、怜侍さんが想うよりももっと、私は怜侍さんのことを愛してるんです」

にこりと微笑むなまえとは裏腹に、御剣は眉間に深々と皺を刻んだまま立ち上がった。
そのままつかつかとデスクの向こう側まで回りこむと、その様子を不思議そうに眺めていたなまえを強く抱き締める。
そしてか細く震えた声でなまえの耳元で囁いた。

「なまえが私に愛想を尽かしたのかと驚いた」
「そんなこと、この先一生ありえませんよ」
「ム…そう、か」

少しなまえと身体を離すと、御剣はなまえに触れるだけのキスをした。
私もなまえが思う以上に君を愛してる。
その言葉は、なまえにだけ囁かれた秘密の言葉となった。




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