sleep | ナノ

眠れぬ身体を起こすと、なまえは携帯を開いた。
時刻は25時を回っている。
暗闇の中で開いたバックライトの明るさに徐々に目を慣らしながら、なまえは手馴れた仕草で受信ボックスの中のあるフォルダを開いた。

送信元はすべて『成歩堂 龍一』と表示されているそのフォルダの中から、一番大切なメールを探し出す。
何度も何度も読み返したはずの文章は、成歩堂への想いを募らせる。
眠れない原因はただひとつ。
発作のごとく、成歩堂に逢いたくなってしまったからだった。
しかしディスプレイに表示される時刻は、電話をするにもメールをするにも相応しくない時刻。
それでもなまえの心の中では、逢いたい気持ちと理性が葛藤する。
連絡をするのは諦めようという思いで成歩堂からのメールを開いたはずだったが、綴られた文字を目で追うたびにせつなさが込み上げた。

『成歩堂さんに逢いたくなっちゃいました』

散々迷い、たった一行だけの文章を願うように送信する。
気付いて欲しい気持ちと、眠っているならば邪魔したくないという気持ちが入り混じり、結局どちらを願って送信したのかなまえ自身も判らなくなった。
しかし送信完了の文字が表示されると、途端に後悔の念が押し寄せた。
溜息混じりに携帯を閉じようとすると、突然待ち受け画面が着信中の文字と共に震えだす。

「は、はい…」
「あぁ、なまえちゃん?まだ起きてた?」

電話越しに聞こえるのは紛れもなく成歩堂その人の声だった。
その優しいトーンに思わずなまえの視界がぼやける。
必死に平静を装って答えようとするも、うまく言葉が紡げなかった。

「なまえちゃん、泣いてるでしょ?」

笑いながら問い掛ける声の優しさに、堪えきれず涙が零れる。
返事が出来ずにいると、受話器越しの声はどこか嬉しそうになまえの耳に届いた。

「僕もね、無性になまえに逢いたくて仕方ない時があるんだよ。それでも敢えて言わないのは何でか判る?」
「どうしてですか?」
「うん…なまえに必要とされてるって実感したいから、かな」

優しく囁くような声に、なまえの心臓が音を立てる。
逢いたい気持ちは募るものの、その声を聞いているだけで心地良さで満たされるようだった。

「成歩堂さんはずるいです。私だって、成歩堂さんに必要とされてるって実感したいのに……」
「なまえ、約束したこと忘れた?」
「あ…龍一、さん……」
「うん、良く出来ました」

電話の向こうで成歩堂が微笑む姿が目に浮かぶ。
照れくさそうに紡がれた己の名前に、成歩堂はくすぐったさを感じながら言葉を続けた。

「明日逢おうか。みぬきもオドロキくんもいないから」
「は、い……」
「その時にちゃんと実感できるよ。僕がどれだけなまえを必要としてるか」

だから今日はもう泣かないで、という成歩堂の言葉になまえは素直に従った。
電話を切る瞬間、おやすみと一緒に愛してるよと囁かれたことで、眠れなかったはずの夜は明日を待ち侘びる幸せな夜へとその姿を変えるのだった。





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