sleep | ナノ

「なまえ」


名前を呼ばれただけで、なまえの心臓が跳ねる。
どうしてこんなに好きなんだろう、と考えれば考えるほど分からなくなる。
低く響く声も、さりげない仕草に隠れる優しさも、はにかむように見せる笑顔も、挙げればキリがないくらい好きなところだらけなのだが、それだけでは言い表せないくらい、心の底から愛おしさがこみ上げる。


「なまえ、どうした?」
「いえ、何でも…」
「ぼんやりして…風邪か?」
「違います、本当に何でもないんです。ただ、」


言いかけた言葉を、なまえは慌てて飲み込む。
自分でも判らないくらい、桐生が好きで仕方がないのだ。ただ、それは本人にはとても照れくさくて告げられない。
やっぱりなんでもないです、と代わりに答えてみると、案の定桐生はそれならいいんだとすんなり引き下がる。
本心など、言えるはずがないのだ。
本当はもっと構って欲しいことも、もっと触れて欲しいことも、もっと好きだと言われたいことも。
桐生の重荷になりたくない一身で強がりになったが、なまえは桐生が思う以上に甘えたがりなのだ。
桐生の視線がなまえから外れた隙に小さく溜息がこぼれる。もちろんなまえは、桐生には聞こえないように吐いたはずだったのだが、桐生はそこまで鈍感ではなかった。


「なまえ、こっち」
「…え、」
「来い、隣に」


なまえが言われるがままに桐生の隣へとにじり寄ると、その瞬間に桐生の腕がなまえの肩を抱き寄せる。
バランスを崩して桐生にもたれ掛かるなまえの髪に唇を寄せると、桐生は少し怒ったような声色でまったく、と囁いた。


「お前、なんで我慢するんだ?」
「ごめん、なさい…」
「…謝るな、俺も気が利かねぇからな…悪かった」


思わず桐生に抱きつくと、案の定桐生はなまえを優しく抱きとめてくれた。
桐生の両腿をまたぐ姿で首筋に縋りつく姿は、甘えた子供同然だった。
それでも桐生は何も言わずなまえの頭を撫でてやり、そっと背を包み込んでくれる。


「桐生さんが、好きなんです…。誰にも渡したくないの…」
「心配しなくても、俺は誰のものにもならねぇよ。…甘え下手だな、なまえは」


素直な方が可愛いぜ。
自然な流れで紡がれた言葉に頬を染めながら、なまえは桐生には敵わないと改めて思い知らされる。
火照った頬を隠すように再びぎゅっと桐生の首筋に擦り寄りながら、なまえはただ彼の腕の中で幸せを噛み締めた。





声に出来ない想い
(君を深く愛してる)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -