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「おや、なまえさん。殿ならさっき鍛錬に出ましたよ」
「いえ…その、今日も左近様に逢いに…」
「ええ、判ってますよ。今のはちょっとした意地悪です」


悪びれた風でもなく笑ってみせる左近に、なまえは僅かに顔を曇らせる。
先から何度か時間を見つけては左近と二人で話す機会を設けてもらっているのだが、逢うたびにこうして三成を引き合いに出されることになまえは少なからず傷ついていた。
左近は本当は迷惑がっているのだろうか。それともなまえの心を判っていながら毎度のようにからかうのだろうか。
ぐるぐると心に渦巻く感情が膨らみ、今日は左近の顔がまともに見られない。


「あの、やっぱり今日は…戻ります」
「なまえさん?」
「ごめんなさい…」


左近に背を向けて走り出そうとした時、なまえの右腕が強く掴まれた。
その勢いで身体が背後に倒れ込むと、気付けば左近の両腕がなまえを強く包み込んでいた。


「見苦しいったらないでしょうね、男の嫉妬なんて」
「嫉妬…?」
「仕事とはいえ、なまえが殿の御付なのが嫌なんでね…」
「左近様、あの…」
「殿には頼んだんですよ、明日からはなまえを左近にくださいってね」


くるりと向きを変えさせられ、なまえは改めて左近と向かい合った。
左近の大きな右手がなまえの頬に触れ、見れば左近はなんとも困惑した表情でなまえを見つめている。


「公私混同も甚だしくて、幻滅しましたか?」
「そんなこと…」
「なまえ…この左近はね、あなたが思う以上になまえに惹かれてますよ」


だからそんな風に、遠慮がちに話しかけるのはもうやめにしてもらえますかね。
大きな両の手がなまえの頬を包み込み、鼻先がくっつくほど近くで左近の低音がなまえの胸に響く。
こくりとなまえが頷くと、ようやく左近の顔に安堵の表情が浮かんだ。
なまえの表情を確かめるように両手で包んだ柔らかな頬を少しだけ持ち上げると、左近の少し照れたような顔が視界いっぱいに広がる。
その顔がとても優しくて、なまえは今日ようやく、心の底から左近に微笑むことが出来たのだった。



君が思うよりもっと
(本当は好きなんだ)

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