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突然大音量で流れたアダルト動画特有の女性の喘ぎ声に、城戸の頭はパニックのあまり停止する道を選んだ。
神室町地下の部屋の一室、調べたいものがあるからと告げるなまえに言われるがままに使わせた自身のノートパソコンから流れるその声に、城戸は一生分の後悔を味わっていた。
なまえに貸す前にデスクトップを確認しておけば良かった。
そんな後悔などは今となっては後の祭りである。
恐らく品のない行為が映し出されているであろうパソコンのモニターを見ているなまえの表情は城戸の位置からでは良く見えなかったが、停止した思考を無理矢理総動員させた城戸はソファに躓きながらも懸命になまえの座るデスクまで駆け寄った。


「ゴメン、っ」
「っあ…いえ、その…私の方こそすみません」


デスクトップにこのアイコンしかなかったから、つい押しちゃって…。
城戸の視線を逃れたままで語るなまえに、もう合わせる顔など城戸は持ち合わせていなかった。
本当にちょっとした出来心で無料のその動画をダウンロードしたのだが、言い訳するにも情けなさしかないことは間違いなかった。
これ以上なんと声をかけたら良いものか、動画を止めたは良いが城戸はその後の身の振り方までは考えが及ばない。


「あの…」
「っな、に?」
「城戸さんはその…ああいう、胸の大きい子が…好きなんです、か?」
「えっ…?」


ほんのり耳を赤く染めたなまえからの突然の質問に、バカになった脳みそがフル回転をし始めたのが判った。
確かにダウンロードしたその動画は爆乳なんとかかんとかというタイトルの、IだかJカップがどうとかこうとか書いてあったのだ。
だが城戸にとって問題なのはそこではなく、出演していた女優がどことなくなまえに似ていたから保存してしまったというのが正直なところだったのである。
別に巨乳が嫌いなわけではないけれど、ここはどう答えるのが正解なのか…。
冷や汗だか脂汗だか判らない不快な汗がじっとりと浮かぶのを感じながら口ごもっていると、城戸以上にモジモジしたなまえが気恥ずかしそうに視線を寄越した。


「ごめんなさい、その…全然構わないですからね。だって城戸さん、男の人ですし」
「え、と…なまえちゃん?」
「ああいう動画見たりとか、そういうお店に行ったりとか…普通にしますよね」
「ちょ、ちょっと待って!」


一人納得しようとするなまえの肩をぐっと掴むと、考えがまとまらないうちに城戸の口が勝手に動く。
付き合いでキャバクラぐらいは行ったことあるけど、酒飲んでしゃべるくらいだし…とか、いっつもあんなの見てるってわけじゃなくて、とか。
しどろもどろで結局言い訳を繰り返しているうちに、城戸自身も何を言いたいのかが判らなくなってしまった。
あー…と呻き声を上げながらガシガシと乱暴に頭を掻き回す城戸に、なまえの表情が少しずついつもの笑顔に戻り始める。


「あの…言い訳するようですげー恥かしいんだけどさ、」
「はい、」
「実はその…さっきの動画ね。たまたまその…女の子がなまえちゃんに似てたからさ…」


最近逢えてなかったし、俺もいろいろ溜まってて…それでつい、さ…。
消えてなくなってしまいたいような恥かしさでいっぱいの中、城戸は段々と小さくなる声を震わせるようになまえに事情を説明する。
絶対に軽蔑されたな、と暗澹たる気持ちに支配された城戸の心は、それでも向かい合ったなまえの表情が打ち払ってくれた。
叱られた子供のように窺うようになまえを覗き込むと、照れくさそうにしながらも優しく笑うなまえの表情が城戸の目に映った。


「私、あんなに胸大きくないですけど…」
「そ…そんなの関係ないんだって、ホント!」
「でも、逢えない間、城戸さんがそんな風に思っててくれたんだと思ったら、嬉しかったです」
「当たり前だよ…だって俺、毎日なまえちゃん抱いても足んないくらい好きだからさ」


なまえの肩を掴んでいた手でするりとなまえを抱きしめると、まるで悪戯っ子のように笑う声が城戸の耳を擽った。
ばつが悪い思いをしながらも強く抱きしめる腕に力を込めると、城戸はなんとも言えない溜息を盛大に吐いたのだった。



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