sleep | ナノ

目覚まし時計よりも早く目が覚めたなまえは、己の身体を包み込む存在に驚いて跳ね起きた。
すぐ隣を見れば、寝息を立てる真島が一瞬気難しそうな顔を浮かべてもぞもぞと身じろいだ。


「真島、さん…?」
「んぁ…なまえチャン…、おはようさん」


にこりと優しい笑顔を浮かべる真島に、なまえの胸がずきりと痛んだ。
手放しで喜べるほど嬉しく幸せなこの状況だというのに、素直にその幸せを噛み締めることができない自分になまえは自己嫌悪を覚える。
ビックリしました、真島さんが居るなんて全然気付かなかったから…。
何とか笑顔を浮かべて真島にそう告げると、当の真島は不思議そうにパチパチと瞬きを繰り返してじっとなまえを見つめた。


「なんや…あーんなに熱烈なハグで迎えてくれたのに覚えてへんのか?」
「あの…そんなこと、したんですか?」
「せやで!俺の首ンとこにぎゅーてして」


変わらぬ笑顔のままぽん、と頭を撫でられ、なまえは突然込み上げたなんとも表現しきれない不安と幸福感とが入り混じった感情に飲まれ、熱くなった目元を隠すように咄嗟に俯いた。
整理の付けられない混沌とした感情は、それでも間違いなくなまえの涙腺を弱くしていた事は確かだった。
上半身を起き上がらせていたなまえの顔を、まだベッドに身体を沈めていた真島がそっと覗き込む。
すっかり消えてしまった笑顔の変わりに真島の顔に張り付いていたのは、悲しそうな困惑したような、どこか寂しげな表情だった。


「なまえ、」
「っ…」


行為に耽っている時と真面目な会話の時にしか呼ばれない呼び捨てにされた己の名に、突然ぽろりとひと雫の涙が頬を伝い落ちた。
布団をぎゅっと握り締めたまま俯くだけのなまえに、横たわる真島の手がすっと伸ばされる。
後頭部に回された手が優しくなまえを引き寄せたそこは、引き締まった素肌に彩られた見慣れた白蛇の刺青が居座る場所だった。


「お前の代わりは、お前しか居らん。なまえは…誰の代わりでもない」
「真島、さ…」
「なまえが不安なって、こないして泣いとるっちゅうのに気ィの利いた言葉も言われへんけどな…」


俺にはなまえしか居らんし、信じてもらえんかったとしても…これだけはホンマのことやねん。
己の肩がなまえの涙で濡れていくのを感じながら、真島の手はいつまでもなまえの頭を撫で続けた。
信じてもらえないのであればそれでも良いと思えたのは、真島自身がなまえを想っているだけで幸せを感じているからだった。


「ごめ…っ、なさい」
「阿呆、謝らなアカンのは俺やろ?」
「でも…っ、」
「なまえ」


震える華奢な身体を一層強く抱きしめると、真島はなまえの耳元で一度ゆっくりと深呼吸をした。
ふう…と静かに息を吐いて気持ちを落ち着かせた真島は、ぐっとなまえを引き寄せるとそのままゆっくりと己の唇をなまえの耳元へと寄せた。


「どんだけ時間が掛かってもええから…俺をまた、愛してくれ」


もう二度と離れてしまわないように、ただただなまえを抱きしめる腕に真島は力を込めた。
ごめんなさいを繰り返すその唇を塞いだ真島の首には、昨夜のようになまえの両腕がしっかりと絡みついたのだった。



涙に濡れた瞳で
(きみに何度でも縋って欲しい)


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