sleep | ナノ

ずっと傍で見ていたから、なまえは氏康のことを何でも知っているような気になっていた。
もちろんそれは単なる思い込みで、どれだけ長い時間見ていたからといって、他人である以上は何も判りはしないのだと気づいたのは、なまえが氏康に惚れているのと自覚してからだった。

戦に赴く背中を追い、煙管をくわえて紫煙を燻らす姿を追い、なまえの瞳にはいつも氏康が映っていた。



「おい、なまえ」
「はい、氏康様」


煙管をくわえたまま庭先まで姿を現した氏康は、どこか不機嫌そうな表情を浮かべながら、庭掃除に励むなまえの背中に声を掛けた。


「お前、風魔のやつに拾われてどれくらいになる」
「今年で15年程かと…」
「そうかよ、じゃあ俺の傍に置いて15年か」


少しの沈黙の後、ふう、と大きく紫煙を吐き出した氏康は、その煙を目で追いながら何かを考えているようだった。
なまえからは、氏康の表情から彼の感情が読み取れない。
やはりどれだけ長い時間氏康を見てきたと言っても、何も判っちゃいない、となまえは落胆し、視線を下へ落とした。



「お前、」

俯いていたなまえは、氏康の呼び掛けにどきりとしながら顔を上げ、改めて彼を見た。
何かを決意したような瞳はじっとなまえを見ており、なまえは視線を逸らしそうになるのを必死で耐えている。


「自覚はあるか?」
「自覚、と言いますのは…」
「ずっと俺を目で追ってたろう、この15年」


氏康の言うことを理解した途端、なまえは紅く染めた頬を隠すかのように、思わず俯いた。
足音がゆっくりと近づいて来る音が聞こえたが、なまえは下を向いたまま着物の裾を強く握るばかりである。


「自覚があるようだな。それなら良い」


心なし柔らかな声音になった氏康は、愛しむようになまえの髪を撫でてやると、下を向いたままのなまえの顎に指を添え、しっかりと視線をかち合わせた。


「お前が見ているもんが俺だってことを忘れんな。それがこの先も変わらんということもだ、判るか?」


ゆっくりと頷いたなまえに満足気な笑みを浮かべると、氏康はそっとなまえの唇をふさいだ。
風に流れる紫煙の香りが、氏康自身からも感じられる。

そっと唇を離した氏康は、もう一度なまえの髪を撫でながら、なまえの耳元に低く囁いた。





Through Grass

「お前、今夜俺が行くまで寝るんじゃねえぞ」


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