sleep | ナノ

窓を叩く雨音に混じって、壁に隔てられて籠もったシャワーの音が微かに柏木の鼓膜を揺らす。
つい先ほどまでは雨など降りそうもないような空模様だったというのに、なまえが柏木宅に到着する直前にはバケツをひっくり返したような雨が降り出した。
案の定、玄関のドアを開けたなまえは頭のてっぺんからつま先までがずぶ濡れで、そんななまえの手を取ると柏木はまず真っ先にバスルームへとなまえを押し込んだのだった。
シャワーを浴びて身体を温めること、服を乾燥機に入れること、乾くまではしばらく柏木のシャツで我慢すること、と要点のみを述べれば、なまえは素直にその指示に従ったのだ。
きちんと聞き分ける様子に満足感に浸ること十数分、柏木の背後でバスルームのドアが開く音が聞こえた。


「柏木さん、シャワーありがとうございました」
「いや、迎えに行かなかった俺の責任だからな。悪かった」
「そんなことないです…本当に急に土砂降りになったんですもん」


バスタオルを頭に引っ掛けたままのなまえは、その身体には大きすぎる柏木のシャツを纏って上機嫌に笑顔を見せる。
ちょうど太腿の半分くらいまで届くシャツの裾が、見方によっては丈の短いワンピースでも着ているように見えてしまう。
眩しいほどの素足に張り付きそうな視線を引き離しながらなまえに近づくと、柏木の手はなまえのバスタオルへと伸びてゆく。
欲情しそうな心を隠すように少しだけ乱雑にタオル越しの髪をわしゃわしゃと撫でてやれば、小さな悲鳴がなまえの唇から零れ落ちた。


「髪も乾かさないと、風邪引くぞ」
「あ、じゃあ…柏木さんに乾かしてもらいたい、な?」
「まったく…いつからそんなに甘え上手になったんだか」


なまえを待たせたままバスルームからドライヤーを手に戻ってくると、柏木はソファへ腰を下ろし、その両脚の間のクッションの上になまえを座らせた。
温風を噴出すそれをいろんな角度から当てながらなまえの髪を指で梳いていると、何も映していないテレビの画面にうっとりと瞳を閉ざすなまえの姿が映っていた。
熱くないか、と問えばなまえからは気持ちいいです、と的外れな答えが返り、そんなやり取りですらも柏木には愛おしいと感じられた。
段々と乾いてゆく柔らかな髪はサラサラと指通りがよく、次第に柏木も自らなまえの髪から手を離すことが惜しいとすら思えてしまう。


「ほら、なまえ。乾いたぞ」
「ん…、はぁい」


膝を抱えたままのなまえの顔を覗き込んでみれば、僅かに顔を傾けて視線を合わせるなまえの視線はうっとりと熱を孕んでいた。
嬉しそうに綻んだ頬をつん、と指先で啄いて笑顔を返すと、なまえは柏木の膝の上にコツンと頭を乗せた。
そのせいでなまえの表情は柏木からは見えなくなってしまったが、膝に触れた温もりが柏木の理性を大きく揺さぶり始める。


「雨に降られてついてないなぁって思ってたんですけど、そうでもなかったみたいです」
「ん…?そうか?」
「だって、柏木さんに髪乾かしてもらっちゃいましたし。それに…」
「それに…なんだ?」


意味ありげにふふ、と甘い声で笑ってみせると、なまえは柏木の膝の上に寄り添ったままで静かに瞳を閉ざした。
このシャツ、柏木さんの匂いがして…柏木さんに抱きしめられてるみたいで安心しちゃうんです。
ほぅ…と吐き出されたなまえの吐息に、不覚にも柏木の思考が一瞬で停止した。
揺さぶられた理性は、その一言だけで面白いほど簡単にストッパーが壊れてしまう。


「ずいぶんと…俺を誘うのが上手くなったもんだな」


己の脚の間にちょこんと収まるなまえの肩を掴んで強引に振り向かせると、そのまま柏木はなまえの唇を塞いだ。
乾いたばかりの艶々の髪に指を絡ませたままで、深く深く、口づけが交わされるのだった。



ふわり、香る



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -