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他愛もない雑談の合間、なまえが告げたのは秋山の名だった。
すぐにはピンと来なかった真島も、スカイファイナンスという名を聞いた途端にスッと笑顔が消えた。
どうやら秋山の会社の女性社員を含めた三人で食事をしたという話らしいが、明るいなまえの話口調がどうにも真島の癪に触るようだ。
話のメインはほとんどが花という女性社員のことなのだが、何より秋山と一緒出かけていたという事実が真島の中の地雷となってしまったらしい。
突然止まった合いの手におや、と首を傾げながらなまえが真島の顔を覗き込むと、どこか遠くを見つめたままで押し黙る真島になまえは慌てて姿勢を正した。


「あの…真島さん、」
「なあなまえチャン、」
「っ、あ…はい、」


びくりと跳ね上がった身体を慌てて押し付けながら返事をするなまえに、真島がゆっくりと向き直る。
眉間に刻まれた皺は深く、なまえを見つめる瞳には一切の冗談は通じなそうであった。
じっと見つめられているだけでじわりと汗が浮かんできそうなほど、今の真島の眼力には緊張で鼓動が早くなってしまう。
返事をしたっきり向き合ったままで次の言葉を待っていると、革手袋越しに真島の手がなまえの顎を持ち上げた。


「お前は俺の女やろ…?」
「っ…あ…」
「なぁ、ちゃうんか?」
「…っ真、島さ…」


かぁっと一気に火照ってゆく身体をどうにも出来ないまま、なまえは蛇に睨まれた蛙よろしく鋭い瞳に見つめられて固まるしか出来ず。
呼吸の仕方まで忘れて真島の瞳に釘付けになっているうちに、鋭かった真島の瞳に浮かび始めた好奇の色に気が付いた。
急激な落差にどうしたのだろうかと動揺するなまえを余所に、身体を震わせる真島は突然俯くと何かを堪えているようだった。
真島の対応の変化にどうにも出来ず、ただただその様子を見つめていると、ぶはっと噴出して笑い出した真島が天を仰いだ。
大爆笑の真島の様子になまえがうまく対処できずにいるうちに、すまんすまんと繰り返す彼の手がぽんぽんとなまえの頭を撫でた。


「やっぱりなまえチャンは可愛ェなぁ…。そういう反応、ホンマに堪らんわ」
「あ、の……」
「でもな、俺のもんちゅうのはホンマのことやろ?」


せやからあんまり心配させんといてぇや。
わしわしとなまえの頭を撫でながら、優しく笑う真島になまえの心臓がどきりと音を立てる。
嗚呼、自分は真島さんのものなんだなぁ…と、言葉にされると改めてじわりと実感が胸に湧き上がり、撫でられる頭がとても嬉しくてならない。
先ほどまではびくびくと身体を竦ませていたのが、現金なもので今は真島の見せる笑顔にほぅと熱い溜息が漏れるほどである。


「その身体には、俺以外指一本触れさせん…」
「まじ、ま…さん…」
「ま、そんだけお前にハマっとるっちゅうわけや」


頭を撫でていた手がなまえの後頭部をぐっと引き寄せられたかと思うと、唇に柔らかな感触が重なった。
ちゅっと音を立てて離れれば、なまえの目の前にはどこか切なげな笑みを浮かべる真島の表情が広がっていた。
せやけど、なまえが俺以外のオトコを好きになる日が来たら…素直に身ィ引かんとアカンかなぁ…。
愛おしそうな声音で告げられた言葉でも、なまえには途端に動揺が走る。
まさか真島にそんなことを言われるとは…と恐怖にも近い感情が一気に膨れ上がり、恐怖心からバクバクと心臓が大きな音を立て始めた。
絶対にそんな日なんて来ません、と大慌てで泣き付かんばかりになまえが真島に抱きつくと、真島の浮かべる笑みはふわりと優しさを含み始める。


「なまえがそう言うんやったら、俺は一安心やな」


ぎゅっとなまえを抱きしめる真島の腕に、なまえにも安堵の溜息が漏れる。
嗚呼、どうしてこうも真島さんは私の心を掴んで離さないんだろう…。
真島に振り回されることすら幸せに感じながら、なまえは頬を綻ばせたままぎゅっと真島の胸に抱きついた。



Grassy Love
(きみに触れていいのは、この僕だけ)


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