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手の平に乗る程の小さな雪の達磨を作っていると、酔狂なことだ、と笑う声が聞こえた。
振り向いた先にいたのは、まるで幼子でも見るかのような穏やかな表情の氏康と、腕組みをしながら廊下の柱に背を預ける小太郎の二人。
なまえに声を掛けた氏康は、庭石の上でしゃがみこんでいたなまえに近づくと、簀子の上でなまえと同様の姿勢でしゃがみながらじっとなまえの手元を覗き込んだ。


「手、冷たかねぇのか?」
「冷たいですけど、こんなにたくさん雪が積もったのを見たらつい…」


満面の笑で雪達磨を簀子に置いたなまえに、氏康も釣られて笑みを見せる。
ガシガシと少し乱暴になまえの頭を撫でると、氏康は少し重たそうに立ち上がった。


「達磨はひとつで止めとけよ。手が霜焼けになっちまうぞ」


そう言うと氏康は上機嫌なままでなまえに背を向けて、そのまま廊下をすたすたと進んでいった。
だが、その氏康と共に行動をしていたであろう小太郎はというと、先程と同じ立ち姿のままでなまえを見ていた。
氏康様と共にどちらかに向かわれていたのではないのだろうか。
なまえがその疑問を口にするより早く、小太郎が背に預けていた重心をす、と元に戻したので、なまえは小太郎へ声を掛けそびれてしまった。


「うぬは……」
「えっ…」
「つくづくうぬは、我を惑わす…」
「小太郎様を、私が…?」


小太郎の立つ簀子よりも一段低い庭石の上に立っていたなまえは、首を反らして小太郎を見遣った。
ただでさえ背の高い彼の顔が、やけに離れて見えた。
だが、次の瞬間に小太郎がす、と腰を落として片膝立ちになったので、自然と真っ直ぐ正面に彼の視線を受け止めることとなった。

不意に小太郎の右手が、後頭部へと回された。
そのことに気づいた時には、なまえの身体はとても優しい力で小太郎へと引き寄せられていた。
唇が彼の肩口へと押し付けられ、彼の左腕がなまえの背中を包み込む。


「うぬに触れて良いのは我だけだ」


抱き寄せられたその耳元に、吐息混じりの低い声が響く。
小太郎の唇が、なまえの耳に触れて囁きかけてくる。


「判ったな?」


そう問うた声に、なまえは小さく何度も頷くことで何とか己の意思を表してみせた。
なまえの身体を離し、立ち上がり際に小太郎はその右手でぽんとなまえの頭を撫でると、口元にうっすらと笑みを浮かべて氏康の後を追った。
小太郎の後ろ姿を目で追いながら、冷えた指先で小太郎の唇が触れていた耳に触れてみると、そこは驚く程に熱を帯びていた。

彼が戻って来てしまったら、もう心臓がもたない。
熱くなった耳を冷やしながら雪の達磨の頭をひと撫ですると、なまえは急いで部屋へと戻ったのだった。




眠れないジェラシー


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