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たまたま流れた公開間近の映画のコマーシャル映像の中に、これでもかと云わんばかりの濃厚なキスシーンが大画面に映し出された。
いつもであれば、柏木の部屋のテレビは大きくて映画の予告CMであっても迫力があっていいなぁなんてのん気な事を思うなまえだが、今回ばかりはそうも行かなかった。
柔らかくふかふかなソファで隣り合う柏木を、なまえは嫌になるほど意識してしまったのだ。
熱っぽい瞳で互いを見つめ合い、壊れ物でも扱うかのようにそっと女性の頬に触れながらゆっくりと迫るテレビの中の男性に、なまえはじっと見入りながら柏木の影を重ねていた。
今日は久しぶりに柏木に逢えたのである。つまり、互いに触れあることもとても久しぶりなのだ。
期待していないわけではないのだが、しばらく逢えずにいた分、なまえが柏木に触れて欲しいという感情を抱いたのは至って普通の事だった。


「どうしたなまえ、固まってるぞ」
「あ、いえ…なんでもないです」
「そうか?なら良いんだが」


ちらりとなまえへと投げかけられた柏木の視線は、すぐになまえから逸らされてしまう。
すっと伸ばされた手はテーブルの上のマグカップを捕らえており、柏木はテレビに視線を預けたままでごくりとコーヒーを一口飲み下した。
それと同時に揺れ動いた喉仏の動きにまで、なまえは身体が熱を帯びてしまう。今は柏木が何をしても、なまえの性的欲求を刺激するのだ。


「で、どうする?」
「え…っ、」
「久しぶりに逢えたんだ、何かしたいこととか行きたいところはないのか?」
「あ…」


やっと柏木の視線が独り占め出来たのも束の間、甘く鼓膜を揺さぶる柏木の低い声に、なまえは堪らず目を逸らした。
触れて欲しい、キスして欲しい、抱いて欲しい。
頭の中をぐるぐると駆け巡る本音が浅ましく感じられて、なまえは柏木の問いかけにすぐに応えることが出来なかった。
本音を言ったら、柏木は自分を軽蔑するのではないだろうか。そんな思いが湧き上がり、なまえの頭は必至に優等生な答えを探しに動き出す。


「あの…柏木さんにお任せします。柏木さんが行きたい所とかあれば…」
「なまえ、」


必至に考えた答えを告げるなまえを遮って、柏木がなまえの名を呼んだ。
逸らされずに突き刺さる柏木からの視線と同時に、無骨な指先がなまえの頬へと触れる。
苦しいほどに締め付けられた心臓をそのままで柏木の瞳を見つめていると、いいのか?と囁くような声で問いかけられた。


「久しぶりだって言うのに、出かけても良いのか?」
「かし…わぎ、さん…」
「なまえは俺と、したくないのか?」
「っ、あ…」


俺は、一秒でも早くお前を抱きたいと思ってたんだけどな。
段々と顔を近づけながら語りかける柏木に、なまえは思わずぎゅうっと瞳を閉じた。
先ほどまでとは違う艶っぽい低音に、身体が勝手に期待で震えてしまう。
良いのか?と、今度は耳元に熱い吐息が掛かり、それだけでなまえの最奥が疼きを覚えた。


「柏木さん、っ…」
「ん?」
「した、い…です…」


柏木さんに、たくさん触れて欲しい。
抱き縋るなまえの言葉に、柏木の口元が緩む。映画の予告を見つめるなまえの瞳に浮かぶ羨望の色を、柏木は当然ながら察していたのだ。
柔らかな唇にそっと触れると、それだけでなまえからは甘ったるいほどの吐息が零れた。
音を立てながらなまえのふくよかな唇を離れると、蕩けた瞳が柏木を見つめていた。
格好をつけようと思っていたのだが、どうやら柏木もそうは行かなかったようである。キスをしただけで硬さを帯びた其れは、正直になまえを求めていた。
ベッドに行くぞ、と囁く柏木には、既に女の顔へと表情を変えたなまえが小さく柏木に頷いてみせる。
柏木もなまえと同じく他人のキスシーン如きで欲情してしまったのだが、それはなまえには秘密であった。



同じ夢を見ていた
(逢えない時間も、ずっと)


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