sleep | ナノ

コンビニスイーツの前で真剣に悩む姿ですらも、逐一愛らしい。
両手に持った種類の違うスイーツに交互に視線を投げかけるなまえに見惚れていると、くるりと振り返ったなまえが悩ましげに眉根を寄せて城戸を見つめてきた。


「城戸さん…どっちにしましょう…」
「え?あ…決まんない、の?」
「なんか、どっちもすごく美味しそうで…」
「何ならさ、どっちも買っちゃったら?」


突然振り返ったなまえに慌てて口元を引き締めながら告げれば、なまえはその提案も渋る。
二つも食べたら太っちゃうよなぁ、なんて嘆いているが、城戸からすればなまえはもう少しくらい太ったとしても愛しい存在であることには変わりない。
なまえの細い身体にはまだ触れたことはないが、今よりも多少ふっくらしたとしても、城戸には何一つ問題などないのである。


「あ、じゃあこうしよう。俺がこっち、なまえちゃんはこっち。で、分け合えば問題ないでしょ?」
「いいんですか?じゃあ、早速買ってきます!」
「ちょっ、待って待って!これくらい俺に払わせてよ」


慌ててなまえの両手から二種類のスイーツをひったくると、城戸はレジで煙草をひとつ追加した。
なまえの前では吸わないようにしているのだが、切らしていた事を思い出して補充をする。


「じゃ、行きますか」
「はい」


レジで会計を終えると、ビニール袋をぶら下げながら地下のアジトへと二人で足を向かわせる。
繋ごうかどうしようかと迷う指先は、結局城戸の上着のポケットからは出てこず仕舞いであった。
以前、敵対組織から無理矢理ぶん取った地下のアジトがせっかく陽の目を見ることになったというのに、城戸はなまえをエスコートする事さえろくに出来ない自分がもどかしい。
今まで一度として触れたことのないなまえを前に、この様ながらも今夜勝負をかけようとしている自分が情けなさ過ぎて溜息が漏れそうだった。


「寒くなってきましたね、城戸さん」
「え?ああ、そうだね」
「この時間になると、すっかり冷えちゃいます」


城戸の隣を歩くなまえは、スッと視線を空に向けながら城戸に語りかける。
陽が落ちても派手なネオンに彩られる神室町であっても、やはり夜になれば寒さを感じる時期になってきた。
なまえの逸らされた首のラインに視線を奪われたまま城戸が不埒な考えに支配されていると、なまえへの返事もお座成りになってしまう。
そんな城戸の心の内を知ってか知らずか、なまえはにこりと笑顔を見せると右手を城戸の上着のポケットへと押し込んだ。


「あ、やっぱり城戸さんの手あったかいですね」
「ちょ…なまえちゃん?」
「私の手も入れてください」
「あ、もちろん…いいけど、」


ポケットの中で初めて触れ合ったなまえの指は、思った以上にほっそりとしていた。
全神経が全て指先に集まってしまったかのように、感覚がやたらと研ぎ澄まされてゆく。
指と指を絡ませるように組みながら手を繋ぐと、城戸はそれだけで理性が揺らぐのを感じた。


「なまえちゃん…俺、」
「ね、城戸さん」
「あ…なに?」


もう少し、ゆっくり歩きませんか?
囁かれたなまえの声に熱が帯びたと感じたのは、単なる気のせいだろうか。
それでも、重なり合った瞳ががらりと変わったのは間違いがなさそうだった。
ごくりと生唾を飲んで頷くと、城戸はポケット内のなまえの手をぎゅっと握り締めた。



スワロウテイル
(世界に光が満ちた)


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