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では、失礼いたします。
そう言って幸村に頭を下げた後、なまえが立ち上がろうとしたところを、幸村の手が阻んだ。
待ってください、という声と同時になまえの右手首が引っ張られ、ぐらりと身体が傾いた。
尻餅をつきそうになったなまえの身体は、すっぽりと幸村の腕の中に抱きとめられる。


「も…、びっくりしました。……幸村様?」
「あ…その、すみません…」


なまえをぎゅっと抱きしめたままで固まる幸村に、なまえからは不思議そうな視線がぶつけられた。
手を離さねば。なまえの身体を解放しなければ。
頭では判っているのに、幸村の身体は意に反して抱きしめる腕に力を込めたままであった。


「どうか…されましたか?」
「あの…いえ、何でもないんですが…」


ただ一言、行かないで、となまえを見つめたままで囁くと、なまえの頬が一瞬で染まる様が見て取れた。
もう無遠慮になまえを抱き寄せると、幸村はなまえの首元に顔を埋めて両腕の力を一層強めた。


「行かないでください…。今日はずっと、私の傍で…」
「幸村、様…」
「なまえを…帰したくありません」


なまえの首元に頭を預けたまま、幸村の声だけがやけに響き渡る。
強く抱き縋る幸村の仕草がどこか新鮮で、子供のように駄々を捏ねる姿がなまえには愛おしく感じられた。
思わずくすりと笑みを零すと、なまえは幸村の頭をよしよしと撫でてやった。


「では、今日は幸村様のお傍にいさせてください」
「…良いのですか?」
「はい、ですがその代わりに」


今日はたくさん、私を甘えさせてください。
幸村の耳に囁かれた優しい声音に、思わず幸村はなまえの唇を塞ぐ。
もちろんです、と告げた幸村によって、なまえの身体は畳みの上へとゆっくり押し倒された。


誰よりも愛しい
(甘えんぼシリーズVol.8)


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