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頭と身体が繋がっていない。なまえは正にそういう状態であった。
自分の意思に反して、目が半蔵を追って離れなかった。
彼のことだから、私の視線になど簡単に気づいてしまう…。頭では判っていても、姿を追うことは止められなかった。

好いていることが、時々恐ろしく苦しくなる。
呼吸をすることすらもままならないのだ。
だからこそ、今この瞬間のように、身体が意思に逆らって勝手に半蔵を追ってしまうことが起こってしまう。
自分で自分を制御できなくなっていることに苦々しくため息を吐くと、なまえは無理矢理に身体を自室へと向かわせた。
しかし、重い足取りで漸く自室に戻ったにも拘わらず、部屋の前には先程なまえとは逆方向へと足を進めていたはずの半蔵の姿があったのだった。
ちらりと向けられた視線だけでは、口当ての下の表情までは読めない。


「用か…」
「いえ…あのように不躾に、申し訳ありませんでした」


ぺこりと頭を下げ、再び半蔵と視線がかち合った時、なまえは咄嗟に目を逸らしてしまった。
心の底を見透かされてしまいそうで、怖くも気恥しくもあったのだ。
だから、なまえ、と優しい声音で呼び掛けられた時、なまえは思わずきゅっと目を閉じた。


「お前は、心の内が全て顔に出る」
「すみません…」
「…何故」
「私…こんなはしたない姿……」


そっと開いた瞳でおずおずと半蔵を見つめる。
自分がどんなに物欲しそうな顔をしていることか…。
そう思うと、なまえは羞恥心からこの場を逃げ出したい衝動に駆られた。
そんななまえの心の内などお見通しなのであろう。半蔵は壁際に背を付けるなまえを両手の中に閉じ込めるように立ち、ぐいとなまえに顔を近づける。


「俺に、密事は無駄だ」


その言葉がなまえの引き金となり、恥ずかしさで染まった頬と泣き出しそうな瞳でしっかりと半蔵を見据えた。
心臓の音が、半蔵にも聞こえてしまいそうなほどけたたましく鳴り響いている。


「私、半蔵様に……」


“触れたいです”
その言葉を告げ終えるか否かという瞬間に、なまえの唇が塞がれた。
布越しに触れ合う唇が、ひどく官能的だった。
もどかしさと、それでも伝わる温もりと、やはり感じる物足りなさとが混じり合い、それを訴えかけるようになまえの手が半蔵のたくましく盛り上がった二の腕を掴んだ。
それでも半蔵はなまえから唇を離すと、少し息の上がったなまえの額に己の額を重ねながら、そっとなまえの頬を両手で包み込んだ。


「今は、之までだ」
「半蔵様…」
「許せ」


なまえは半蔵と額を重ね合わせたままで、こくりと小さく頷いてみせた。
その目に映った半蔵の表情が、先程までの自分と同じような目をしているように感じられて、胸が高鳴った。

半蔵様も、同じ気持ちでいてくれた。
それが嬉しくて、なまえは素直に彼が身体を離すのを見送ったが、それでも布越しの口づけが半蔵の精一杯の自制の行動だということには、今はまだ気付くことができなかった。



有罪な愛で
君が壊れてしまわぬように…


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