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「駄目」
「…ですが、」
「それでも駄目」


胡坐で座った足の間になまえを閉じ込め、ほっそりした項にぴたりとくっついたまま元就はなまえを抱きしめる。
傍に居ると漂うなまえの香りに、こっそりと深呼吸をした。
元就は今、非常に退屈なのだ。退屈で退屈で、ともすれば死んでしまいそうなのである。


「なまえは、どうして私を置いて行ってしまうんだい?」
「そうはおっしゃいますけど…」
「私はこんなに…なまえと離れるのが辛くて仕方がないのに…」


なまえをぎゅっと抱きしめながら囁く元就に、なまえが見返りながら少しだけ怒った顔を見せた。
そんな顔をしたって可愛いと思ってしまうだけなのに…。
密かに愛おしさを噛み締めていると、なまえは「大殿、」と厳しい口調で元就に呼びかけた。


「その呼び方は嫌だと言ったはずなんだけどなぁ」
「もう…私はこれから掃除をしなければならないと申しているじゃありませんか」


大殿がいつも妨害するから、ここだけいつも手付かずなんですよ。
怒るとなお愛おしいのは、それでも彼女が己の身を案じてくれているからだろう。
ついついにやけてしまう口元に気付かれたのか、なまえは一段と頬を膨らませた。


「ちっともお聞きくださいませんね」
「はは、私がなまえの話を聞かないことなんて一度としてないよ」
「でしたら…たまにはきちんとお掃除させて下さっても」
「駄ァ目」


なまえの身体ごと無理矢理振り向かせると、元就は怒って突き出された唇をちゅっと塞ぐ。
虚を突かれて吃驚したのか、ぱちぱちと瞬きが繰り返されるなまえの瞳は僅かに見開かれていた。


「なまえの頭の中には、私のことだけ入っていて欲しいんだ」
「で、したら…」
「駄目だよ。なまえの視線も温もりも香りも…私は独り占めしていたい」


君が掃除をしている間、私の寂しさは誰が埋めてくれるんだい?
すまし顔で告げる元就に、なまえは思わず笑ってしまう。
毎回これで掃除を断念しているというのに、結局今日も元就の誘惑に負けてしまうのだから。


「元就様は本当に甘えんぼさんですね」
「仕方がないさ」


私はなまえが好きなんだもの。
囁かれた声を耳に、なまえは再び元就の口づけを受け止めたのだった。


誰よりも愛しい
(甘えんぼシリーズVol.7)


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