sleep | ナノ

空が白んでくるまでは、まだまだ時間がかかりそうだった。
眠れずに何度も寝返りを繰り返し、それでも少しの睡魔も訪れはせず。
今日は眠るのを諦めようと、なまえは仕方なしに布団を出、音を立てないよう部屋から抜け出した。
日中は日差しの強いこの時期とはいえ、夜中は風がひんやりと冷たい。
薄着で廊下に出てきたなまえは、それでも風が凪いでいるよりは気分が良い、とゆっくりとその風を吸い込んだ。

見上げれば、猫の爪で出来た引っ掻き傷のような細い月が出ていた。真っ暗な空に、星がよく見える。
その星屑を仰ぎ見ようと、庭石へ足を下ろして廊下の床目に腰掛けた時、背後から伸びた何者かの腕がなまえの身体を包み込んだ。


「っ、半蔵…様、」


びっくりしました、と思わず笑みを零したなまえに、半蔵は答えの代わりに抱きしめた腕に力を込めた。
無言のままの半蔵に寄りかかるように身体を預け、なまえはゆっくりと目を閉じる。


「半蔵様のこと、起こしてしまいましたか」
「…否」
「では、半蔵様も眠れなかったのですか?」
「否…、なまえの気配がした故」


眠れなかったのか、と半蔵に問われ、なまえは閉じた瞳を開くと半蔵を見つめた。
なまえの目に映った半蔵の表情はどこか真剣なもので、本心から自分を心配しているのが痛いほどに伝わってくる。
だからこそ、正直に心にある思いを告げて良いものか、なまえの中に迷いが生じる。


「密事は無駄也…」
「ですが…、」
「なまえ」


ただひと言名前を呼ばれただけで、隠しておこうと決めた思いが大きく揺らぐ。
自分を見つめる半蔵の瞳がとても真剣で、隠し事をするということに罪悪感すら覚えた。
なまえは一つ小さく深呼吸をすると、意を決して秘めた思いを口にした。


「私、半蔵様の事が好きになってしまって…、それ以来半蔵様の事を考えて居ると、眠れない日が良くあります…」


目を逸らし、紅く染めた頬を隠せぬまま、しどろもどろになりながらもなまえは半蔵への思いを言葉に変えた。
ただ黙ってなまえの言葉を聞いていた半蔵は何も答えはしなかったが、抱きしめた腕を離すことはなく、なまえを見つめる瞳には優しげな色を浮かべていた。
無言のままの半蔵を気にしてちらりと覗き見ると、半蔵はほんの少し口元で笑みを作って見せる。


「なまえ、」
「は、はい…」
「眠れぬのなら、いつでも此処へ…。共に居ることくらいは出来よう…」
「…はい、ありがとうございます」


半蔵に包まれたまま、そっと彼の肩口へと頭を預けるなまえ。
緊張と安堵が入り雑じり、それでも半蔵の温もりが心地良いから、なんだかこのまま眠ってしまいたいと、そう思った。



sleepless night



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