うず高く積み重ねられた書物の山の中に鎮座する元就の後姿に、なまえの口から溜息が漏れる。
大人気ないとは判っているのだが、日がな一日自室に籠もっている元就を目にしては退屈さから溜息が出るのは必死である。
そんななまえの気持ちなど露知らず。
どうぞ、と元就愛用の湯飲みにお茶を注いで差し出すと、元就の顔には笑顔が浮かんだ。
「ありがとうなまえ。気が利くなぁ」
「いえ…」
「ん、どうしたんだい?そんな暗い顔をして…」
口に運びかけた湯飲みをことりと文机の上に戻すと、不安げな表情を浮かべる元就と目が合った。
さすがに退屈なので構ってくださいとは言い難く黙っていると、見かねた元就がおいでとなまえを手招いた。
「どうして黙ってしまうのかなぁ。なんでも言ってもらわないと、私は鈍いから…」
「良いんです、大したことではありませんですし」
「それでも私は話して欲しいんだけどな」
元就があまりに困った顔をしてなまえを見つめてくるので、なまえは堪らず目をそらす。
構って欲しいだなんて子供じみた事を言うのは、やはりどうしても気が引けるのだ。
だが、言うまでは許さないとでも言いたげな顔で見つめられ、その上しっかり手首を掴まれてしまっては、なまえも覚悟を決めるより他なかった。
「あの…笑わないでくださいますか?」
「もちろん、笑ったりなんてしないさ」
「その、ですね…退屈だったんです」
構っていただきたいなぁって、駄々を捏ねるようで恥かしいんですけれど…。
ぽつぽつと小さな声で元就に告げていると、案の定元就はふふと口元に笑みを浮かべた。
「もう…笑わないでくださいってお願いしたのに…」
「ごめんごめん、あんまりにも可愛いことを言ってくれたからね」
つい嬉しくなってしまったんだ。
満面の笑みを浮かべながら、元就がなまえの身体を抱きしめる。
ぷうと膨れてみせるなまえの頬をふわりと包み込むと、元就の唇がなまえの額に優しく触れた。
もっと甘えてくれて構わないんだよ、と。
囁く声が耳を擽り、包まれる温もりの心地よさで、なまえの拗ねた態度など早々に打ち消されてしまう。
「じゃあ、ありがたく構わせてもらうとしますか」
嬉しそうな笑顔の元就に唇を重ねられ、思わずなまえの腕が元就の背中に回る。
まだ陽の高い元就の部屋で、二人の視線は静かに重なり合うのだった。
触れて見つめて口づけて(退屈を殺して)