すうぃーとすうぃーと | ナノ
緑色


「エル。わたしのこと、忘れないでね。」


青空が、目に染みる。
瞼に日差しを受けながら、そっと目を閉じた。




「どうしたんですか、いきなり。」


彼は特に不思議でもなさそうにこちらに問い掛ける。
わたしがおかしなことを言い出すのはいつものことだ。
彼はそれをわかってる。
風が吹いて草の匂いが鼻をすり抜けた。



「エルはさ。自分の世界が広いじゃん。
わたしはそれを知らないの。
あなただけの世界にわたしはいないんだよ。」


「…せっかくそこから抜け出して昼寝をしにきたんです。
仕事の話はやめましょうよ。」



そう言い放ち背を向けられてしまった。
あーあ、せっかく2人の時間なのに機嫌を損ねてしまった。



「…エルは、何もわかってないよ。」



目から零れ落ちた涙は5月の温かい風に拐われた。
どうして自分が泣いているのかよくわからない。
けど今はこの温かさが何故だか切なくて
自分では収拾がつかなくなる程
心の中が静かに荒れ始める。


「…真幸。泣かないでください。」


「だって、わからないんだもん…」


「わたしはわかりますよ。
真幸はメランコリックな感情に陥ってるだけです。」


「どうして?」


「それは、」



エルが、一瞬口をつぐんだ。





「春だから、ですよ。」



また温かい風が吹いた。
芝生の上に乗っかる彼の黒い髪を揺らす。
草の緑色に真っ黒はとても映えて綺麗だけれど
そんな彼の言葉は相変わらずさっぱりだ。


「やっぱりわからないよ、エル…」


「そうですね、
わからないと言われても説明のしようがありません。
こればかりは理屈ではありませんから。」


合間に仕方のなさそうなため息を吐いて
けど、と彼の言葉が続いた。


「私に理屈抜きの感情を教えてくれたのは真幸。貴女です。」




お日様の下で目を閉じると日差しを感じられること
5月の風が温かいこと
それが吹くと草の匂いがすること
草色に黒が映えること
春になると切ない気分になること。


エルは、何も知らない。
わたしも、どうしてだかはわからない。



「わたしは、エルの世界にいるのかな」


「ちゃんといますよ。忘れたりなんかしません。」



あぁ、よかった。
わたし、しっかりこの人の一部なんだ。
知り過ぎて何も知らないこの人に、
ちゃんと世界を教えてあげられる

最初から半分朦朧としていた意識が
彼に髪を撫でられてちゃんとした眠気に変わる。

幸せを感じて春の風に吹かれながら
緑色に体を預けて2人一緒に目を閉じた。

























130516
久々更新、憂鬱な春のふわふわお昼寝タイム



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