すうぃーとすうぃーと | ナノ
heart washer


確かに私の彼氏は我儘だけど
無理なことは無理だといつも言い聞かせているはずだ。

私だけじゃない、世話役のワタリさんだって
そう言ってエルを叱ってくれることもある。

…なのにこの男ったら。


「どうして…たまにはいいじゃないですか。」


「だっ、から、駄目なもんは駄目って
言ってるでしょーが変態クマ猫背変態探偵!!!」


「(…変態が2つ入っていた…)」


「(…あ、変態2回言っちゃった。)」


今、まさに私は迫られている。
いや、そういうことじゃなくって、
多分結果的にはそういうことになっちゃうんだろうけど、
えっとつまり、何が言いたいかと言うと、


「…ケチくさいですね。
いいじゃないですか、一緒にお風呂くらい。」


…だから無理なものは無理ー!!!


そう叫び、落胆する。言い聞かせているとは言っても
我儘な彼が私の言い分を聞き入れるなんてことは、
極々稀な事なのである。
そう、私は恋人に、一緒に入浴することを迫られていた!
我儘で他人の話の聞けない恋人に!

あーもうどうしよう逃れることは不可能だわ!
再び落胆したところに、扉のがちゃっと開く音。
そこから入ってきた人からは後光が指すように見える、
待ってました!と思わず叫びそうになった。


「わ、ワタリさーん!!!!!」


「おやおや、どうしましたか。」


「エルが私とお風呂に入ると言って聞かないんですぅー!」


「ほっほっほ、そうでしたか。
たまには良いのではないですか?」


「わっ、ワタリさんまで…!」


「おやしかしエル、
貴方ヒューマンウォッシャーではなくて
私の助けなしに普通の入浴が出来るのですか?」


「…え?ちょっと待って嘘でしょ、どういうことなのエル…」










と、まぁ何だかんだあって
結局エルと一緒にお風呂に入ることになってしまった。
(結局こいつの思い通りだ…)

ごちゃごちゃ言うエルを他所に
無理矢理ミルクの入浴剤を投入したお湯がゆらゆら揺れる。

立ち上がる湯気越しにエルを見ると
いつもは生気のないくらい真っ白な頬が
ほんのりピンクに色付いていた。


「(もうっ…だから一緒にお風呂は嫌なのよ…)」


エルがいつもより色っぽく見えて、
こっちが変な気分になってしまう。
隠せたらいいんだけど、生憎私は素っ裸なせいで
いつもより気持ちもおおっぴらになってしまう。
絶対顔に出てる…頬が赤くなってしまっているのは、
お風呂が熱いせいにしておこう。

ふいにばちっと目が合う。やばい、気づかれる。
何てったって彼は天性の勘の持ち主だもの。

すると固まって目を逸らせなくなってる私に
先程と同じ助け舟の声が外から聞こえた。


「真幸さん、お湯加減はいかがですか?
それとLの様子は」


「あっ、大丈夫です、ありがとうございますー!」


助け舟に、半ば適当になってしまった返事を返すと
そうですか、また伺いますと、
脱衣場から出て行ってしまった。

あぁ、また2人きりの世界。
どきどきと先程の続きで緊張が走る。



「…背中洗いっこでもしませんか。」


…何を言い出すのかと思えば。

ここまで来たら何されても同じだし、
私はそれを了承した。

イスに座らされて、背中を向かされる。


「(き、緊張で強張る…)」


エルは私の背中を、
石鹸のついたタオルでゆっくりと撫でた。


「あ」


「な、何よ」


「たくさんニキビ出来てますね、背中。」


「あぁ、昔からストレス溜まると
背中にニキビ出来やすくなるのよね。
全く誰のせいなのかしら!」


「…すみません。」


嫌味で言ったのに嫌に素直だ。
彼はたまにこういうことをするから、
こっちの調子が狂ってしまう。



「ん、じゃあ次私の番ね。エル後ろ向いて。」


「はい」


瞬間、私は固まる。

エルの背中の中央より上辺りに、ビッシリ、爪痕。

顔がお湯が沸騰した時のように一気に熱を持つ。
いつものアレの時だ。
私いつもこんなことしてるんだ…
無意識の行動に気付かされて、
恥ずかしくって堪らなくなる。


「どうしましたか。」


黙りこくる私を不審に思ったエルが
顔だけを後ろに振り向きながら言う。


「あ、あ、あの、せ背中、傷…」


辛うじてそれだけを伝えると
エルは口の端をふ、と上げて表情を変えた。


「…あぁ。
真幸がたくさんよがってくる時ですね。」


そう言われて更に体温が上昇する。
ごめんなさいを言いたいのに、
恥ずかしすぎて声が出ない。
私は更に真っ赤になって俯くだけ。

そんな時頬に触れたのは
いつもより熱い彼の手の平。
背を向けていたはずの彼は
いつの間にかこちらに向き直っていた。


「え、る」


「…いいんですよ?幸せですから。
それに私もニキビつくってるんですから、お互い様です。」


…言ってることがおかしくて、少しだけ緊張が解れた。


「…でも、恥ずかしいものは恥ずかしいもん…」


「だから、いいんですよ。
恥ずかしがる必要はない、
もっとよがって、素直に私を求めてください。」


「も、馬鹿っ……」


結局、甘い気分にさせられてしまう。
助け舟のはずだった、
もう一度様子を見に来たワタリさんを
もう大丈夫ですから、と今度はエルが追い払う。

ここまで来たらもう何もかも同じ。
身も心も裸になって、
彼の背中にしっかり手を添え
湯気に包まれたいつもより色っぽい彼を
素直になってたくさん求めた。

















20130313
久々の更新がこんなんですみません




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