すうぃーとすうぃーと | ナノ
世界の午前4時



ふわふわ、する






















意識の狭間から、
何となく覚醒した時、
自分の体の重みがとても心地良かった。
欠伸して力が抜けた瞬間の開放感が
私を更に深い意識に泳がせる。

気持ちいい。

んー、とすっきりしたような唸りを上げながら
シーツの冷たい場所を探して体をモゾモゾと動かす。
多分人間なら誰でも好きな時間だと思う。


まだ眠い。まだ寝れる。
なんて幸せなんだろう。
生まれたことに喜びを感じてしまうほど。

しかししばらく意識の狭間を行ったり来たりしていたけど
完全には眠れないところをみると
どうやらもう眠りの世界へ行く事は不可能みたいだ。

私は完全に覚醒してしまった。
条件反射的に時計を見やる。
午前4時前。どうしよう。

完全に意識が覚醒したといっても
まだ体を起こすには至らない私は
再びシーツの冷たい場所を探し始めた。


…あぁ、エルに会いたい。


私はどうやら、
シーツの冷たい場所を探すつもりが、
一緒に寝ていたはずの恋人の
体温が残る場所を見つけてしまったらしい。


恋人は、世界で1番忙しい人だ。


一緒に布団に入っても、
私が寝たのを確認して仕事に戻ってしまう。

仕方ない。
だって彼の手には人の命がかかっている。
時には世界の命運だって。

だから彼は、一生私のものにはならないのだ。


…駄目だ。どうやらもう本当に眠れないらしい。
彼に会いに行こう、世界一忙しい恋人に。





別のフロアを通り抜け
エレベーターで最上階まで上がる。
ロイヤルスウィートが彼の職場。
奥の廊下を突き当たってすぐの扉のドアノブに
そっと手を掛けた。

…良いのだろうか。
ここに来るのは初めてじゃない。
けどそれはエルに招かれた時だけで、
仕事中だとわかってて自分から来るのは初めてだ。

でも、会いたい。会いたいんだもん。
彼の仕事なんて、正義なんて知ったこっちゃない。
恋人に会いたいと思って、何がいけないの。

午前4時過ぎ。私はそっと扉を開けた。




「…おはようございまーす……」


一応小声でそう呟き、
薄暗い部屋を通り抜けて
定位置のイスにいるはずの彼を探す。

薄暗い部屋の中じゃ猫背がとっても不気味で、
彼のシルエットを見つけた時、
本当に幽霊かと思った。


「エル…?」


そっと覗き込むと、そこには、
静かに規則正しい寝息を立てる、彼。


ね、寝てる…!


私はあろうことか、
世界の名探偵の居眠りに遭遇してしまった。

眠らない探偵の寝顔は
恋人の私にとったってレアだ。
そんな価値のある寝顔をじっと見つめる。

猫背で隈だらけで、
本当に幽霊みたいなこの人が、
世界を救っていると誰が思うだろうか。


「可愛い…」


髪にそっと触れると彼の眉間に皺が寄った。
起きる?……起きない。
イスに全身を預けている彼は相当深い眠りについてるらしい

いつだって世界のものにしかならない彼が
今は私の好き放題に出来る。
この寝顔は、正真正銘私のものだ。


「………エル。」


名前を呼んで、そっと口付ける。
…起きない。


「エルってば。エール。」


起こす気はないけど、
楽しくなってたくさん名前を呼ぶ。
駄目だ、愛しい。
可愛い寝顔に懲りずに再び口付けた。


「うふふ。」


上下する喉仏を撫でる、
あー大好きだなー。

もう駄目我慢出来ない。
彼と同じイスに乗っかり
鼻と鼻がくっつきそうな位置で彼の寝顔を見つめた。

ちゅっ、とリップ音を立てて口付けた。
角度を変えて啄むように何度も味わう。


「ん………エ……」


キスを終え
そっと目を開けると目を大きく見開いた彼と目が合う。


「ぎゃあああああ!」


「…何してるんですか。真幸。」


キスの間に起きちゃったのね。不覚…!
色気の欠片も無い声を上げてしまったことに
今更恥ずかしさを覚え口を抑えた。


「…夜這いですか。」


「…もう朝ですけど。」


「…では朝這いですか」


「…エル、今の発言馬鹿みたい。」


「…貴女のレベル合わせて差し上げてるんです。」


「なっ!!!」


なんですとー!と私が声を上げてる間に
彼は起き上がって目を擦った。
PCを再起動させて書類を整理し始めた貴方はもう世界のもの。


「ところで。」


世界のものになったはずの彼が振り向く。
こんな瞬間はたまらなく嬉しい。


「珍しいですね。貴女がここに来るなんて。」


「…目覚めちゃって。寂しかったの。」


あぁ、と納得したような顔をして
彼は目を伏せた。


「ごめんね。お仕事だよね。
邪魔なら帰る。ていうか帰る。眠くなってきちゃった。」


「そうですか、では。」


これ以上ここにいたら、
彼が世界のものであることを思い知らされて
泣きたくなってしまうに違いない。
だからその前に退散することにした。
それに本当に眠い。今ならまた寝れる。
先程までのように心地良く…


「では、行きましょう、真幸。」


「…えっ!?何で!?」


「私も寝ます。いけませんか?」


「でっ、でもお仕事は?
忙しいから起きてきたんでしょ…?」


予想外の展開に驚きが隠せない。
嬉しい、けど、
世界の探偵が人の命や世界の命運より
恋人を優先するなんて、
そんなことダメに決まってる。


「…寂しいと、顔に書いてあります。」


「………」


しまった。
けど本音なんだから仕方がない。


「…駄目ですか。」


「もう、馬鹿…」


「真幸…」


「ごめん、大丈夫、だよわたし」


「…もっと我儘を言ってください。」


「…エル、」


「…すみません。寂しい思いさせてるのは私ですね」


「…ううん、ごめん。
たまにでいいの。一緒に寝たい。
エルの寝顔が見たい。」


「…はい。」


「…めんどくさい?」


「…馬鹿ですね。
貴女に我儘を言われるのは、全然嫌じゃないです。」


「っありがと、エル…」


世界の名探偵も、
貴女の前ではただの男です。
だから、甘えてください。
たくさん我儘を言ってください。
応えられることには応えます。


そう言って、
いつも世界を守ってる腕でぎゅっと私を抱きしめる。
そうされると、世界の全てが私のものになった気がした。



「さぁ寝ましょう。もう朝ですけど。」


「うん…うふふ、大好き…」


「…そういえば寝込みを襲われたんですよね、私。」


「おっ、おそっ、襲ってないもん…!
その、あまりに可愛かったから…」


「…また、してくれますか。」


「へ」


「…寝顔を見せたら、
またキスしてくれますか。」


「…していいなら。」


「えぇ、どうぞ?」


「…///寝る。おやすみっ」


「はい、おやすみなさい。」


ふわふわする。甘ったるい。
大好きな胸に擦り寄ればエルの匂いと体温に包
まれる。


夢見心地な意識の中で
世界の名探偵が確かに自分のものになるのを感じた。
その証拠に彼の頬にキスをして、
反応がないのを確認してから
ゆっくりと目を閉じて眠りについた。















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