穏やかな日々に10のお題

1:シーツにくるまりまどろむ朝
AM 07:48
 素肌に触れるシーツが気持ちいい。どうにも起き上がる気になれない。朝の冷えた空気ならばなおさら恋しくて、隣の人肌に熱を求めれば、光也は色気も無く口をうっすら開けてまだ眠ってる。間抜け面もかわいいなぁ、なんて思うと笑みが漏れる。ふざけて鼻をつまんでみれば、「む」とも「ぐ」ともつかないうめき声。
 くくっと忍び笑いをしていたら、突然ぐいっと頭を抱きかかえられて、彼の胸に頭を押し付けるみたいな形に。
「……おまえな」
 まだぼんやりとしたままの声で、彼が言う。
「おはよう、光也」
 挨拶する俺の頭をぐしゃぐしゃなでて、はぁ、とため息。
「お前のキスで窒息死しそうになる夢を見た」
 それはまた甘い目覚めだと俺は笑った。



2:失敗した朝食を二人で
AM 08:25
 片瀬は何事もそつなくこなす器用な男だが、とかく料理だけはなんともならない。マズかないが、うまくない。俺が作ったほうが絶対美味い。かといって俺は主婦になる気はないしその辺はまぁ分担作業だろ、ということで今日は片瀬の当番。
 実はこいつが俺の好物であるだし巻き卵に密かに挑戦しているのは知っているが、今のところ――
「またスクランブルエッグか」

連敗記録更新中のようだ。



3:風になびく洗濯物
AM 09:10
 洗剤のコマーシャルみたいだな、となびくシーツを見てそう思う。
 ここ最近、シーツを洗う回数が多い気がする。というか、ほぼ毎日洗ってる。なんでってそりゃ、汚れるからで。
「……やりすぎか、最近」
 かくいう今日も腰はだるい。
「……嫌か?」
 恐る恐る聞く片瀬。
「ばーか」
 不意打ちでキスすると、片瀬がふにゃりと笑う。

 なんだかんだ、俺たちは新婚なのだ。



4:コーヒーの砂糖は二つ
AM 10:36
 「ほれ、片瀬」
 「ありがとう」
 用意されたコーヒーと砂糖はいつも二人分。
 何も言わなくてもそれが当たり前。それが幸せ。



5:サンドイッチを片手に
PM 00:05
 目の前で、トマトのスライスがパンの間から零れ落ちそうだ。
 そう思っていたら、とうとうどろりと滑り始めてしまったので、ついつい身を乗り出し、ぱくっとやってしまった。
 俺が飛びついたのは、光也がかぶりつくサンドイッチの反対側。食パン半分の向こうには、驚き顔の光也。
 パンの両端をかじりあって、ちょっと笑って……いい大人が何してんだろうなぁ。楽しくて仕方ないよ。



6:君の肩にもたれて
PM 01:59
 腹の皮が張ると目の皮がたるむとはよく言ったもので、食後はどうしても眠くなる。そうでなくても、満足に夜眠れないのだからしかたない。ああ、理由は適当に察してくれ。
 とにかく俺の寝不足は片瀬にも責任があるのだから、……肩くらいは貸してもらおう。



7:秒針の音がゆっくりと聞こえる空間
PM 03:01
 ぐっすり寝こけていたみたいで、意識が浮上してみるとずいぶんと時間がたっているらしい。外はもう日差しの一番強い時間を過ぎたようだ。
 俺は片瀬にもたれかかったまま、昼寝をはじめたときと同じままの体勢。片瀬はずっと本を読んでるみたいだ。たぶん、俺が起きたことには気づいてない。
 部屋の中にあるのは、時計と、時々片瀬がページをめくる音だけ。たまに風が頬を撫でる。
 ……もう少し、たぬき寝入りしてもいいかもしれないな。そんな気もしたけれど
「あ、夕飯の買い物」
 今日も家事は待ってはくれないのだ。



8:伸びる影はいつも二人分
PM 05:25
 結局色々めんどくさくて、惣菜屋でコロッケを購入した。あと卵とか牛乳とか必要な食品も。重たい買い物袋をひとつずつ分け合って、帰路を行く。時間がたてばたつほど足から延びる黒い影は長く細くなる。
 歳をとっていくら影の形が変わっても、数が増えることはないのだろう。俺たちは男で、新しい家族ができることはないのだから。
 それはたぶん、寂しくて、切ないことなのだと思う。
 だけど、夕日に照らされて赤くなった片瀬のはにかみ顔なんか見てたら
「光也。手、つなごうか」
 それでもいいやと思えてしまうのだ。



9:夕餉の香り
PM 07:30
 だし巻き卵ってのは、こうやって作るんだぞ。
 明日もスクランブルエッグは勘弁してくれよな。



10:またあした
PM 11:59

 同じベッドの上。抱き合って、キスをして
 「おはよう」ではじまって「お休み」で終わる。 

 ああ、なんて幸せな毎日。

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