* 那春 R18





熱い体、熱い声、とけてく……心。





【煮詰めたパッション・モア】






「ただい……ま?」

鍵を開け、玄関の扉を開いて室内に入り、ホッと一息ついて。
私は足下に自分のものよりずっとずっと大きい、男性ものの革靴を見つけ、これが誰のものか考え……るまでもなく。
ここしばらく、会いたくて会いたくて仕方がなかった、待ちわびていた相手のものだと気づいて、慌てて履いていたパンプスを脱ぎました。

「那月くんっ。……那月くん?」

リビングに駆け込めばすぐに、ソファに寝そべっている大きな体が見えて。
手荷物を置き、私はそっと彼の顔を覗き込んでみました。

流れた前髪がかかった長い睫毛、高く整った鼻、薄く形の良い唇……シミ一つない白い肌。端正な顔立ちの、見ているだけでドキドキしてくる彼、那月くん。
私の、恋人。
彼は映画の撮影で長期ロケに赴いていたため、こうして姿を見るのはとても久しぶりです。
メールや電話はしていたけれど……体温が感じられるくらいに、那月くんが自分の傍にいることが嬉しくて。喜びと愛しさで全身がいっぱいになって、震えてしまいそう。

(那月くん、那月くん……だいすき……)

そっと、柔らかなミルクティー色の彼の髪に手を伸ばしたところで、そんな彼がいつもかけている眼鏡が見あたらないことに気がつきました。

ちらりと背後のテーブルを見ればそこにあって……。
どうしましょう。私は彼の声を聴きたくてたまらないから、起こしたいけど、でもこのまま寝かせておいてあげたい気もして。
もしも起こすなら眼鏡がないと、那月くんはうまく周りが見えませんよね。となると、掛けてあげた方がいいのか……。

「……那月くん」

ぐるぐると考えて、もう一度呼んで、起きなければもう少しこのままでいましょう。
そう結論を出した私は、彼にもっと顔を近づけて――再び、彼の名前を呼んでみました。

「ん…………、はる、か?」
「はい」

薄く眼を開いた彼の、眠気に掠れた低い声。
機械越しじゃないそれが私の鼓膜を、心を揺すって、胸の高鳴りが止まらない。
自然と、泣いてしまいそうなくらいの愛しさに微笑んだ私を見て取った彼が、急にグイッと。私の体を引っ張りました。

「きゃっ……」
「あったけえ……はる、春歌」

那月くんの体に乗り上げるような体勢になってしまって、慌てる私を余所に、彼は私をぎゅうっと抱きしめて。
ぐりぐりと、私の首筋を鼻で、唇でなぞってくる。

くすぐったくて身を捩ってる内にふと、私は彼の口調に小さな違和感を覚えました。

「ええと、那月、くん……?」
「……なんだ?」

ああ、やっぱり。口調が少しワイルドになってる。――眼鏡が、ないからでしょうか。

眼鏡がない那月くんは、もう一人の人格……砂月くんになる。でもそれは、もう昔の話。砂月くんと那月くんは一つに……精神を統合し、「四ノ宮那月」ただ一人になった。
けれど、ごくたまに、眼鏡を掛けていない那月くんが、どことなく砂月くんっぽくなることがあって……本人曰く、「ワイルドな那月」くんということらしいのですが。

「……今は、ワイルドな那月くんですか?」
「ああ……? どっちでもいいだろ」

眠い、と呟いて、また私の首筋に顔を埋める那月くん。
確かに、どちらの彼も……いいえ、どんな那月くんも大好きだから、私もぎゅうと彼の頭を抱きしめ返しました。
すると嬉しそうに那月くんがふぅっと息を吐くので、ますます愛しさが募ります。

「帰ってくるの、明日の予定じゃなかったでしたっけ」

手櫛で彼の髪をとかしながら尋ねると、まだまだ眠たそうな声でこう答えてくれました。

「全部の予定前倒させて……スケジュール詰めて……一日繰り上げられた」

だから、結構無理した、と。
んん、と唸る声も囁く声にも、疲労感が滲んでいます。そんな疲れている彼を、私は起こしてしまったわけで。

「……それなのに私、起こしちゃったんですね。ごめんなさい、もう少し寝てて……」
「いいんだよ、行くな」

早くおまえの顔が見たくて無理したんだから、これは自業自得なこと。
体を離そうとした私を抱く腕の力を強めて、そう言う那月くん。
私に会いたくて……? だとしたら、どうしよう、すごく嬉しい。

嬉しくて嬉しくて、私はちゅ、と彼の額に唇を寄せました。

普段はどうしても恥ずかしくて、自分からこういうことは出来ないんですけれど……今はただ感情のままに、彼に触れたくてたまらない。
「那月くん、とってもがんばったんですね」

よしよし、と頭を撫でながらまた一つ目尻にキスすると、眼を閉じた彼がとても嬉しそうに微笑みました。

「んー……春歌、もっと」

もっとしてと甘えてくる彼があまりに可愛くて可愛くて……!
私の心臓がきゅんっと収縮してしまいます。
ワイルドな那月くんは、クールなのに情熱的で、ちょびっとだけ怖いところもあるのだけど、でも今はとても無防備で……あんまりに疲れてしまったから、普段の那月くんと、ワイルドな那月くんが混線してるのかも。

優しくて、暖かくて、無邪気だったり、ちょっと強引でワイルドだったり……そんな、彼がもつ色々な面が、大好き。こんな風に疲れていても、私を求めてくれることが、どうにかなってしまいそうなくらい、嬉しくて愛おしい。

労りと愛しさをこめて、私は彼の顔中にたくさんキスしてしまいました。

「んっ……」

最後に唇にキスをすると、いつもなら那月くんはすぐに口づけを深めてくるのだけど、今は私にされるがままで動く様子がありません。
本当に疲れてるんだなぁと、改めて思った私の中で、ちょっとだけ……物足りなさを感じてしまった心が、もっと彼の唇を欲しがらせて。

「那月くん……」

ちゅう、と強く彼の上唇に吸いついて、下唇にゆっくりと舌を這わせてみました。
柔らかい感触が病みつきになりそうで。敏感な薄い皮膚同士の触れあいに、ゾクゾクしてしまって。頬が熱くなったのが、自分でも分かってしまう。
ちらりと見上げれば、那月くんはそんな私を、綺麗な若草色の眼でじっと見透かすように……見ていて。

ああ、だめ。これ以上はだめ……そう思うのに、熱を帯びた彼からの視線に、唇が離せない。
那月くんが、少しだけ口を開く。躊躇っていたらそっと背中を押されて、更に深く重なった唇に導かれるように。
私は舌を、彼の口内に差し入れました。

「……っん、ちゅ……んんッ」
「ん……」

くちゅ、ぴちゅ、鼓膜に響くこの水音を、自分が引き起こしているのだと思うと、とてつもなく恥ずかしいのに。私の体は、絡まり合う舌からもたらされる快感に正直だった。
びりびりとした感触が背に走り、胸が、足の間がむずむずして、腰の奥からじわりと熱がこみ上げてくる。
そんな私の体をゆっくりと、大きな那月くんの手が撫でてきて、ますます体温が上がってしまう。

(……きもち、いい)

触れ合うところから融けていく感覚。私の全てが、彼とのキスのためだけに存在しているみたいだった。
ただただ夢中になって、高まる鼓動と快感のまま、自分の思考ごと那月くんの口の中をぐるり、ぐるりとかき混ぜて。

そうしている内に、那月くんが二人分の唾液を啜り、飲み下すコクリという音が聞こえて。
心地よさに靄がかっていた私の思考が、一気にクリアになったのです。

「っハァッ、ぁ、あ……!」

長く、長く、息をすることも忘れて続けたキスに、苦しくなった私は肩で息をして……すっかり火照ってしまった自分の体を両手で抱くようにして、身を竦めました。

「なんだよ、もう終わりか?」

クスクスと笑う彼の顔が見られなくて、私は顔を逸らしてじっとソファの背もたれを見つめます。

「あぅ……、だめ、です。これ以上は……」
「どうして? 俺はもっと……おまえが欲しい。おまえを感じたい……おまえで満たされたいんだ」

とろりと優しく甘く響く、那月くんの声にまた私の中の熱が大きくなる。
きっと首まで赤くなっている私を見ながら、でも、と彼は言葉を続けました。

「まだ疲れが取れてないから、あまり動きたくねえな」
「つ、疲れてるなら、ここで終わりに」
「ハルちゃん、僕がんばったんです」
「…………えっ」

急に彼の口調がいつもの調子に戻ったのを聞いて、驚いた私が顔を戻せば、すぐに。
潤んだ眼の中に、隠しきれない情欲を滲ませた那月くんの視線が、私の心の奥底までを貫いてきました。

「――だから、ねえ。お願い」

他の誰でもない、那月くんの『お願い』。
ドクンと私の心臓が跳ねる。彼のお願いの内容が、何を求めているのか、細かく言われなくとも分かっている。
だって意識しなくたって、私も同じものを……求めてしまっているから。

キスの、その先を。

「……す……少しだけ、ですからね……」

これは、そう。頑張った那月くんへのご褒美、なんです。


それなのに、私の体は――勝手に期待に濡れていく。









どうしていいか分からずに眉を下げたら、ふっと苦笑した那月くんがとんとん、とシャツの襟を指さしました。

ええと……ぬ、脱がせて、ということですよね……?

私はふるふると、自然と震えてしまう指で彼のカッターシャツのボタンを、上から一つ一つ外していきました。

「そんなに緊張するなよ」
「し、しない方が……不思議です……」

からかうように言う彼の口調が、また少しワイルドに戻っていることが気になりつつ、もくもくと手を動かして。
全て外し終えてはらりと揺れるシャツを、更にもう少し、左右に開き、表れた那月くんの肌にそっと手を滑らせます。

すべすべしてて、綺麗……。

逞しく割れたお腹の筋肉を撫で上げ、うっすらと浮いた肋骨をなぞり、更に上へと動く指が引っかかった……ぷくりと膨らんだもの。
それの正体がすぐに分かって、私の顔がカアッと更に熱くなる。

「あ、の。那月くんもここって……感じるんですか?」

恥ずかしいことを言っていることは自分でも分かっているので、私は俯きながら小さく尋ねてみました。
那月くんはそんな私に手を伸ばし、唇に親指で触れて。楽しそうな口調で、指を滑らせます。……与えられる刺激に、また背中がびりっとしてしまう。

「試してみたらどうだ?」
「ため、す……?」
「そう。いいから、もっと……触ってみろよ」

唇をなぞる力が増す。せっかくだからその口で、と言われてるような気がして、私はゆっくりとそこへ顔を寄せました。

「ん……」

今まであまり意識して見たことがなかった、濃い、くすんだオレンジ色のそこ。
やっぱり、男の人のって、違うんだなって……そう思いながら、丸い突起にちゅ、と口づけてみれば。
頭上の那月くんがふ、と軽い息を漏らして、私の髪を撫でてくれました。

なんだか、不思議。いつもは那月くんにされる方なのに……。
彼の口を、舌の愛撫を思い出して、ブラの中で私の乳首まで尖っていくのが分かって眼が熱くなる。
痒みにも似た何かがそこへの刺激を欲しがって、自分の体のいやらしさを思い知るようで恥ずかしくてたまらなかった。

「んっ、んく……っ」

でも、今は自分の体よりも那月くんを。
寄せた唇を少し窄めて、ちゅ、ちゅうと乳首吸いながら、左手を伸ばして。私は彼の、反対の乳首をそっと押してみました。

「……可愛い」

上目にちらりと見上げれば、頬を少しだけピンク色にして、そう言う那月くんがいて。
暖かく柔らかい微笑みという不意打ちに、ドキンッと心臓が跳ねる。そんな那月くんだって、こうして甘えて私に身を任せている様はどこか可愛いと思う。
でも今は、それ以上の……彼から溢れ出てる色っぽさに当てられてしまって。
私は夢中になって、舌の上で段々堅くなる突起を、啜ったり、嘗めたり、少しだけ歯を立ててみたり……出来る限りで愛撫したのです。
そうして、ちゅぽっと音を立てて口を離したら、私の唇と彼の乳首に銀糸がかかりました。私が零してしまった唾液で那月くんの胸はびしょびしょに濡れてて……。

きっとこの時、ぞくぞくする、背徳感にも似た衝動に、私の中で羞恥の針が振り切れたんだと思う。

「はぁっ、……気持ち、よかったですか?」
「ああ、気持ちいいというより……一生懸命になってるおまえが、ほんっとうに可愛い」

可愛くて興奮した、と、少し身じろいだ彼の股間が私の太股に擦れて……そこが持つ、圧倒的な熱に、びくりと私の体が震えます。

「あ、ここ……も」
「出来るか……?」

いつもの那月くんのような表情で、私の頬を撫でる手はとても優しく。無理はしなくていいと、彼の眼には気遣わしげな色が乗っていました。
……けれど。

「は、い」

私の中のとても淫らな部分が、今、この熱を欲して止まない。だから私は彼の腰に手をかけ、少し苦戦しながらベルトを引き抜きました。

自分が自分じゃないようで、でも、こんな私も……確かに私で。

熱に浮かされた思考は、彼のスラックスを引き下ろし、下着をかき分けて出てきた、天を仰ぐ性器を見て、更に頭の体をとろかしていく。

「おっきい、ですね」
「……久しぶりだからな」
「自分で、してなかった?」
「そんな暇なかったよ、それに」

おまえがいるのに一人でしたって虚しいだけだろ、だなんて。
切なく甘い視線がまた私の胸を焦がす。突き動かされるように手を性器に這わせ、私は屈んで大きく張り出した先端を口に含みました。

「んぐ……っ」

独特の苦みと匂いがして、正直、美味しいだなんて思えなかったけれど。これも那月くんの味だと思うと口を離す気にはなれなくて。

(絶対全部は、口に入りませんね……)

舌を絡めて吸いつきながら、私は片手を腫れた二つの実に、もう片手で性器の裏筋を撫で上げます。

「ッ……春歌、……!」

私を呼ぶ那月くんの声が、気持ちよさそうな吐息が、私の体を喜ばせる。
でもどこか、物足りなそうな響きもあった気がして……どうすればもっと気持ちよくなってもらえるんだろう。

そう思いながら那月くんの顔を見れば、額に少しだけ汗を滲ませた彼は私に、男臭く笑ってみせました。

「もっと、強く……していいから」

熱のこもった声音でくしゃ、と髪を撫でてくる彼の手を、気がついたら私は握ってて。

「んっ……な、つきくん。教えて……?」

強く、って、どれくらい? どんな風に、ですか?

私のたどたどしい問いに、那月くんは目尻を赤く染めて、片手で自分の顔を押さえました。

「何でおまえはそんなに……」
「那月くん?」
「……僕の言われた通りに、出来ますか?」

ちらりと見えた若草色の眼の情欲に誘われるまま、頷く以外に。
私に出来ることなんて、見あたらなかったのです。







「そうです、そう……上手……ッ」

彼に導かれるまま、私は彼の性器への愛撫を続けました。
裏筋に唇で強く吸い付きながら、双珠をゆっくり転がし、もう片方の手で強く幹を擦り上げる。
唾液をまぶすようにすれば、擦る手も滑らかに動くようになって……くちゅくちゅと濡れた音が大きくなっていく。
更に太く、大きくなった性器に愛しさを覚え、頬ずりすれば頭上から、ふふっと小さく笑う気配。
先端をくりくりと指先で擦りつつ、彼を見上げれば、その顔には先ほどまではなかったものが。

「ふぁっ……あ……め、がね……かけちゃう、んです?」
「あなたの可愛い顔がよく見えないから。……ああ、なんだ、それとも今は荒っぽい口調の方が好みか?」

言葉の雰囲気を変え、彼は私を翻弄しようとする。いえ、とっくにそうされているけど、でもますますドキドキしてしまって、私は小さく身じろぎました。

「ど、どっちも好き……です……」

これ以上ないくらい顔が熱くなる。那月くんからもらえるもの全てに心臓が踊る。
眼を潤ませる私をどこまでも愛おしく見つめる彼に、止まらない感情のまま、私は頭を振って。

「なつき、くん……もう」

両手で脈打つ彼の性器を握る私の、内股がぶるぶると震えてしまうのを見て取った那月くんは、少し上体を起こしました。

「ええ、そうですね……出来ますか?」
「が、んばります……」
「じゃあ、全部僕に見せて?」

私はこくりと頷き、自分の服に手をかけました。
カーディガンを、シャツを一枚、一枚。上から、下までを震える指で外し、落としていく。
ねっとりとした熱い視線に段々露わになる肌を炙られて、胸の先端やあそこが……凝る感覚が走って。それも全て見られているのだと思うと、抗えない興奮に腰が鈍く、重くなって。
最後にショーツを引き下ろたら、私の体から溢れる愛液が糸を引いて、太股を伝い落ちていった。

「ぐしょぐしょ……もう、下着の意味がないな」
「だっだって……!ッぁ、あんっ」

つつ、と花びらの縁をなぞられて、体が跳ね上がる。すっかり敏感になってしまったそこは、少しの刺激でもすぐに反応して、私の性感を追い上げる。
那月くんの綺麗な熱い、指。それもたまらなく気持ちがいいけれど、今は目下にある猛った……彼の性器が欲しいと。潤いを増す私の秘部から新たな雫が滴り落ちていきました。

「足、開いて……」

は、と熱いため息を零す彼の眼をレンズ越しに見つめながら、私は言われるがままに彼を跨いで、逞しい肩に捕まって。
反対の手で、秘部を開いて……腰を、落としました。

「っあ、あ、ああぁ……!」

ヌブッズブズブズブ……! そんな音が私の中で鳴り響き、大きな大きな熱の塊が私の体を割り開く。
痛いし、苦しい。けれど、待ち望んでいたことも確かで、私のそこは必死に彼を受け入れようと蠢き、私が意識するより早く、太いそれを飲み込んでいく。

「くッ……ぁ……!」

眉を潜め、頬に汗を伝わせる、険しいけれど艶めかしい表情の那月くん。
那月くんも、興奮して、気持ちよさそうにしてる――その事実が私を一気に、限界まで追いつめた。

「やだッ……きちゃ、きちゃだめっあ、ゃッやああああぁぁぁー!!」

性器を飲み込み、それにごつりと再奥を抉られた、ただそれだけで。
炎が一気に燃え上がるように。マグマの奔流のような爆発が、私の腰に起こった。
びりびりと腿は突っ張り、秘部は強く強く彼の性器を食い締め、背中は勝手に反り返って。バランスを崩しそうになって……そんな私を、逞しい腕が引き寄せ、ぎゅうと抱きしめてくれる。

心が、体が飛んでいってしまいそうな浮遊感に怯えたけれど、すぐに彼のおかげで安堵と充足に満たされて。

一瞬真っ白になった視界に眼を閉じ、再び開ければ世界は水に歪んでいました。

「……あ、ンッ……ごめ、なさ……」

ぼろぼろと溢れてくる涙も、震えてばかりの体も止められず、途切れ途切れに那月くんに謝れば。
力が抜けきった全身を彼の上に預けた私を、労るようにその大きな手がなぞっていく。肩を、腰を、腿を……。
それだけで、小さな快感にまた、きゅうと私の子宮が熱くなる。

そこで、先ほどよりも大きくなった彼の性器の圧迫感に、まだ彼が達していないことに気づきました。

「持ってかれるかと思ったぜ……ったく、挿れただけでイくなよ」

言ってることは少し怒ってるようで、でもその声はどこまでも優しく、甘く、暖かさと愛に満ちているように聞こえて。
胸がいっぱいになって、また涙が溢れてくる。

でも、泣いてられない。だってまだ那月くんは、私の中でどくんどくんと息づき、苦しそうにしてる。
それなのに私は、腕を突っ張ろうとしたところで、全く動けないことが分かって……愕然とした。
「ぁ、わ、たし、もう……動け、ないかも」

すん、鼻を啜る私の目尻にちゅうと吸い付き、舌を伸ばして涙を拭う那月くんは、薄く微笑んだかと思うと。

がっちりと私の腰を掴み、緩やかに律動を開始しました。

「ありがとう、春歌。……後は僕が、がんばりますね、ッ!」
「ひゃぁ、あっぁン……ああぁ――っ!」

新たな快楽の波に一気に飲み込まれ、私はただ那月くんに揺さぶられるまま、喘ぎ続けた。
気持ちよくて、私もあまり動けないなりに夢中で腰を揺すって、彼の性器を味わって……。


やがて私の体の奥底で放たれた熱い迸りに、上り詰めた階段から一気に飛び降りるように、意識を手放したのでした。




***




「……ん、ぁ。もう、あんな時間」

情事が終わり、放心状態だった私の意識が戻ってからも、離れがたくて。私たちは素肌を絡ませ、互いの体を密着させていました。

私の首筋に顔を寄せ、とろんとした表情をしていた那月くんも。ゆるりと私の視線を眼で追って、口を開きます。

「お腹が、空きましたねぇ」
「そうですねぇ……」

空いたから、料理して、ご飯を作らないと。
そう思うのに、体は重力と疲れに負けて、動かせそうにない。
ああだめでしょ私。このままじゃ二人とも、お腹が空くばかりで辛くなっちゃう。

こんな、重たい体を動かせる――原動力が欲しい。

ふと思いついたことがあって、私は顔を那月くんの方へと向けました。

「――ねえ、那月くん……」
「なんでしょう?」
「あの……えっと……き、きき、……」

キスして。そうしたら元気になれるから。

……さっきまでもっとすごいことをしてたのに、なぜだかこの一言がとても気恥ずかしく思えて、結局私は俯いてしまった。

赤くなった顔を隠すように手を頬に当てたら、那月くんがその手を取って、指先に口づけを落としてくれて。
私が何を言いたいのか、きっと彼は分かってる。

「……唇にキスしたら……また、僕は止まらなくなっちゃうから。今はここ、ね」

ちゅ、ちゅと羽のように私の爪や指にキスが落ちてくる。
柔らかくてちょっとくすぐったくて、彼の優しさと愛情がまっすぐ心に運ばれてきて。
自然と浮かぶ微笑みのまま、私は囁きました。

「ふふ……、元気が出ました。じゃあ、ご飯作ってくるから待っててくださいね」
「あ、僕も手伝います」
「那月くんは、いいの」


だって、頑張って私の所に帰ってきてくれたのは、あなただもの。


ちゅ、と彼の頬にキスを落とせば、那月くんは困ったように少し顔を赤らめたから。私はまたそんなあなたを、もっともっと好きになっていく。

床に落とした服を手に取りながら、私はきっと我慢できなくて伸びてきたんだろう彼の腕を、そっと避けました。



――続きはまた、ご飯の後で、ね?





FIN




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Repeatの大恋愛アフターエピソード後の、ワイルドな四ノ宮の感じで書いてみました。
ワイルドな四ノ宮すっごく好きなのです。あいつの可能性は本当に……無限大です……。

あ、あと積極的なハルちゃんっていいですよね。うんうん。私はもう開き直ることにした。

2011.9.25


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