* AA後。Debutの時間軸とは全く別ものです
* R18 前編
胸の動悸が止まらない。
どき、どき、なんてものじゃなくて。
全速力で駆けたってこんな風にならないと思う。今にも口から心臓が飛び出てしまいそうなくらい、びっくりして、混乱して、でも飛び込んでくる光景から眼が離せなくって。
呼吸の仕方を忘れてしまった私は、しゃくりあげるみたいに何度も息をして、息を飲んで。喉、を、鳴らして。
――確かな興奮に、ショーツが濡れたのが分かってしまった。
【Framboise*L*ポーション】
初めて二人が出会ったあの春の日から、季節は既に二巡り。
初夏に突入し、暑い日が多くなってきたけれど、まだまだ気候は不安定な……そんなある日のこと。
春歌と那月は仲良く手を繋ぎ、人通りの少ない路地裏をゆっくりと歩いていた。
「ふふ。こんな風に出歩くの、いつぶりでしょうね?」
「そうですねぇ。半年以上……は、経ってるでしょうか」
帽子を深く被り、真っ黒ではないけれど濃い色をしたレンズの横から覗く若草色の眼を見上げながら、春歌はもうそんなに? と驚いて眼を瞬かせる。
買い物袋でもう一方の手は塞がっているから、頭の中で月日の計算をしてみれば。確かに、最後にこうして那月と並んで歩いたのは、木枯らしが吹き始めた頃だったと春歌は思い起こした。
「あれは、一緒にマフラーを買いに行った日でしたっけ」
「ええ。ついこの間のことみたいなんですけどねぇ」
いつの間にかあなたが選んでくれたマフラーも、コートだっていらない季節になってしまったと、小さく肩を竦める那月に春歌はふんわりと微笑んだ。そんな那月が春歌に選んでくれたのは、茶色を基調にしたピンクと白のチェックの長マフラーで……それは今、春歌の衣装棚の中に大事にしまわれている。
那月はデビューしてから二年目の新人アイドルタレントで、その恋人の春歌もまた、デビューしてから同様に二年のキャリアを歩んだ作曲家の卵。
双方ともにこの一年というもの、毎日のように降ってくる仕事に追われに追われていた。忙しさの合間を縫って逢瀬を重ね、愛を育んできたものの、丸一日時間が出来る休日が重なることなど滅多になくて。
互いのスケジュールが決まり次第早めに連絡を取り、休みの日を突き合わせ、ようやく今日という日を完全にオフにすることが出来た二人。
春歌としてはいつも通り、どちらかの部屋で二人きりで過ごせれば十分だったのだが……それに反対したのは、春歌よりもよほど人の目を気にしなければいけない那月の方だった。
アイドル稼業とはいえ、せっかくのオフで出歩けないのは嫌ですという彼の主張に、春歌はでもそれは……と難色を示した。仕事も順風満帆な今、他の誰かならまだしも、恋人である自分と連れ立つのはあまりよくないのではないかと思ったからだ。
そんな彼女の、学生の頃よりも伸びた艶やかな髪を一房掬った那月は、絹のような感触を確かめるように唇を這わせながら囁いた。
『でもね、この間のあなたの誕生日も、まともに祝うことが出来なかったじゃないですか』
『あ……そういえば』
つい先日18歳の誕生日を迎えた春歌だったが、那月も彼女自身もどうしても予定が明けられず……その翌日、部屋の前に置かれていた彼からのプレゼントと、携帯へ入っていたバースデイメールを思い起こした春歌へ、那月はほんの少し切なさを滲ませた微笑みを向ける。
『だから、ね? 僕、バレないように努力します。ハルちゃんとデートがしたいんです』
那月の甘くねだる視線に勝てた試しのない春歌は、今回も結局こくんと頷くことしか出来なかった。けれど春歌とて、デートが嬉しくないはずがなくて。
そこまで大っぴらに振る舞うことは出来ないが、平日でガラガラの水族館を一周し、那月の見立てた洋服やアクセサリー等を買って、食事をして……バレやしないかとハラハラしなかったわけではないが、出歩き始めて数時間、何の問題もなくデートが楽しめてこれたことに内心春歌はホッとしていたのだった。
「案外バレないものだ、って、ほんとですねぇ。トキヤ君が言ってた通りです」
そんな風にのほほんと述べる那月を見上げ、春歌は小さく笑う。
「そうだ。帽子も似合いますね、那月くん」
サングラスも含めて見慣れない姿ではあるが、やはり何でも着こなせてしまうんだなぁと思う春歌。
とても格好良いです! という彼女の一言に、にっこりと笑った那月はほんのりと目尻を赤く染めた。
「……あなたにそう言われるのが、僕は一番嬉しいんですよ」
囁き、かがみこんできた那月にちゅうと頬を吸われた春歌は、慌てて顔を逸らして唇を尖らせる。
「もう、那月くんっ。あまりこういう所では……」
「誰も見てないから平気ですよぉ」
ふふっと悪戯っぽく微笑んだ那月の唇が、今度は二人の繋がれた手……春歌の爪先にちょん、と落とされて。
ああまたしても、と、気恥ずかしさに俯く春歌だったが、足下のぽつりと濃灰色の染みが出来たのを見て取り、ハッとして空を見上げた。
「あ……」
朝から曇り、濃い灰色をしていた空から地上へ、大粒の雫が注ぎ始める。
「おや……このままだと濡れちゃいますね」
あっと言う間に強くなった雨足に、那月は自分のジャケットを脱いで春歌の肩にかけて。また彼女の手を取り、勢いよく走り始めた。
突然のことにもつれそうになる足をどうにか動かした春歌が、目を見開いて声を上げたものの。那月は意図的にか、本当に聞こえなかったのか定かではないが、さらりと彼女の言葉を流して更に足を速めたのだった。
「あ、あの! 那月くんが濡れちゃう……!」
「雨宿り出来る場所を探しましょう!」
段々と身を湿らせていく冷たい雫とは対照的に、繋いだ手の温もりばかりが熱くて力強い。
驟雨にけぶる視界の中、彼の背中から目を逸らさないようにと。春歌はそれ以上の言葉を飲み込んで、ひたすら足を動かしていった。
*
(それで……こ、こんな所に辿り着いてしまうだなんて……)
傍でキョロキョロと物珍しそうに周囲を見渡している那月とは対照的に、春歌は先ほどからずっと俯いていた。
ぽたぽたと、二人の周りに飛び散る水滴が、随分と長く雨に打たれてしまったことを物語っていたが、春歌の内心はそれどころではない。床を見つめる彼女の頬には、朱が上っている。
「ええと……受付の従業員さんはどこでしょう?」
「……い……いないと……おもい、ます……」
小さく小さく、歯切れ悪く言葉を絞り出した春歌は、ある種の羞恥に意識を飛ばしてしまいそうだった。
何で分かるかって、これは、これはトモちゃんから知識として教えてもらったりしたのもあって、わわ私が利用したことがあるとかそういうんじゃないんです……!
(ら、ららっ、らぶほてる、だなんて!)
と、春歌は誰にともなく、内心で叫んだ。
裏通りだけに一時避難出来るカフェや軒先のある店なども見あたらず、しばらく走った先にあった、大きく張り出た木の下に二人は駆け込んだ。あまり体力のない春歌が息を整えている横で、ふと後方へ体を向けた那月が、おやと声をあげる。
「……ここ、ホテル? みたいですね」
随分おしゃれな感じですねーと言う那月の視線を追った春歌の目には、ツートンカラーな外観と設置された照明もモダンな、確かにおしゃれな雰囲気の建築物と。
……<REST>と<STAY>、そして料金表の表示が見えて。
ぶわわと春歌の脳裏に思い起こされたのは、以前、元ルームメイトの親友・友千香と一緒に遊んでいた時のことだった。
二人で繁華街を出歩いていた時、目に入った見慣れぬ建造物に首を傾げた春歌へと、微妙な顔をした友千香がやや歯切れ悪くその建物の説明をする。
『あー、あれね……そりゃあんたに縁があるとは思えないけど。なんてったらいいかなー。んー……。
……恋人がえっちするため、だけのホテルね。ラブホテルっていうの』
『っえ、えええぇ、ッち……!?』
一瞬のうちにどかんと噴火したかのように首まで赤くなった春歌に、まあそういう反応するわよね、と友千香は肩を竦めつつ諭すような口調で言った。
『あんたはとにかく、変な男にああいう所に連れ込まれないように気をつけなさい』
犯罪まがいのことに使われる場合だってあるんだし、特に春歌は頼りなさげで無防備に見えるから、危ないことに巻き込まれないよう自衛しろと。それ以前に知らない男についていくなんてことは言語道断だと。
友人からのありがたい忠告にコクコクと何度も頷いた春歌は、こういう所がアブない場所なんですね……と、じーっとその建物の外観を目に焼き付けたのだった。
その後友千香から借りた女性誌にも、この手の建物のことが話題に出ていたこともあって、どういう場所かおぼろげに知識を持ってしまった春歌としては――今目の前にある建物の、記憶の中のものと似たインフォメーションに。冷や汗が湧く心地になってしまう。
(ま、まさか……)
ここもそういう場所なのでは、とほぼ確信して顔を赤くする春歌に気づいていない那月は、一度空を見て。うーんと唸ったかと思うと、ポンッと手を打った。
「雨もまだまだ止みそうにないですし、このままここにいてもいずれ濡れてしまいますね。休憩だけでも使えるみたいですし、ここで休んでいきましょう」
そうさらりと告げられて、春歌は口から心臓が飛び出るのではないかというくらい、動揺した。
那月の口振りからして、このホテルが普通のホテルと変わりないと思ってるように感じられるが……このまま入るのもどうかと思った春歌は、歩を進めようとした那月の服の裾を掴む。
「あ、あ、あの、ここは……」
那月はアイドルだ。恋人であるとはいえ、こういう所を利用していらぬ火を立てたくない……そう思う彼女を見つめる那月の表情は、あくまでとても真剣で。
「でも、あなたに風邪をひかせたくありません。こんなに濡れてしまって……」
服を貸した那月の方がよほどびしょ濡れだというのに、彼はどこまでも春歌のことを心配していた。
気遣わしげな視線を向けられドキッとしている内に、いつの間にか春歌は手を引かれ、その建物の入り口をくぐってしまったのだった。
(あ、あわわ……)
入り口を入ってちらりと見えた自販機には、春歌も分かるようになってしまった避妊具とおぼしきものがあり、ああ本当にそういう所なのだと。春歌はそれ以上、顔を上げられなくなってしまう。
――元から人通り自体が少なく、雨が降り出したこともあって、おそらく周囲には誰もいなかっただろう。彼と共に入ったことは誰からも見られていない、それだけは幸いだったことだけれど。
……彼とえっちをしたことが、ないわけではないけれど。
(やっぱり、初めからそう、意識してしまうと……だめです恥ずかしい……!)
そんな具合に俯いた顔を上げられず、小さく体を震わせる春歌を見て取った那月は。どうやら彼女が、雨に打たれて体調を崩しかけているのだと勘違いしたらしい。
「……早く暖まらないとダメですね。ええと、ああここに利用方法が書いてある」
セルフサービスってことなんですねぇ。と調子を崩さない那月の、いつもと変わらない様子に。自分ばかりが意識してしまってる事実をつきつけられ、ますます春歌はいたたまれなくなってしまう。
(ふ、普通にしてた方がいいんでしょうか……でも……)
ちらりと目だけを那月へと上向けてみれば、彼は興味津々な様子で部屋を選んでいる所だった。
「わあ、ハート型のベッドなんてあるんですね〜。内装の色もかわいい……ハルちゃん、ここでいいですか?」
「……ッ!」
向けられた魅力的な笑顔が見ていられず、彼の指先の部屋を見ようとした春歌だったが。その隣にあるどこか恐ろしい部屋……いわゆるSMものの部屋だが……を先に見てしまい、一も二もなく彼に頷き返した。
(か、可愛いだけならきっと大丈夫ですよね……!)
あとは、そういう雰囲気に――ならない予感はないのだけど。
未知の世界に迷い込んでしまったような、ドキドキと不安に胸を押さえながら、春歌は先を行く那月の後をついていくのだった。
*
部屋の扉を開き、その内側に入ってすぐ、那月は春歌が持っていた荷物の中身をチェックした。
「服は濡れずに済んでますね。よかった……じゃあハルちゃん、先にシャワーを浴びてきてください」
「ッひ、ぇ、あああああの、その……!」
シャワーって、と、彼女の挙動不審な様子にやや首を傾げたものの、これ以上春歌の体を冷やすわけにはいかないと思った那月はやんわりと彼女を促す。
「まだ寒くなる日もありますし、早く暖まらないと。僕は向こうに行ってますので」
入ってすぐ横にバスルームがあるのが見て取れたため、那月は衣服を彼女に手渡し、返事を待たずに部屋の奥に進むことにした。最後に見えた春歌の顔はやはり赤くなったり青くなったりせわしなかったが、シャワーを浴びればきっと落ち着くだろう。
「あ、本当にハートだ」
ダブルベッドよりやや大きめのサイズのそこは、愛らしいピンク色のシーツにフリルがたっぷりの掛け布に……枕までハート型をしている。
過剰な少女趣味のそれを珍しげに見つつ、そこの縁に座ろうとした所で、そういえば全身濡れているんだと思いだし。那月は水分を含んで重くなったシャツを脱ぎ、乱れた髪を掻きあげ、ベルトをカチャカチャと緩めた。
ジーンズをおろし、下着までは濡れていないことを確認すると、那月は今度こそベッドに腰を下ろす。
「彼女に見られて困るものでもないですしね〜」
と、ピヨちゃん柄のトランクスのまま少し膝を開いた那月はそこで。すぐ近くから水音が響いてくることを不思議に思って、顔を上げたのだが。
上げてすぐ、飛び込んできた光景に彼の思考が停止した。
(え……ハルちゃん……?)
思わず那月は眼を擦ったが、映るものは変わらない。
那月の眼には、アメニティを片手に、シャワーの湯加減を見ている……裸の春歌が見えた。
春歌は頬をうっすらと赤く染め、どこか落ち着かない様子でバスルームを見回している。
そんな彼女と一瞬眼が合った気がした那月だったが、春歌はそのままシャワーヘッドと手に取ってお湯を浴び始めたので……那月から見られていることには、気がついていないようだ。
(ハルちゃんなら見られてるって分かった時点で、浴室から飛び出してきますよね……)
互いの裸を知らない関係でないとはいえ、春歌は普段からとても恥ずかしがり屋だ。そんな彼女が気づいていないとなると……バスルームからは外は見えず、外からは中が見えるのだと、那月は理解する。
「マジックミラー……ですか……」
弾ける水音がよく聞こえるのは、バスルームの上部に隙間があってそこから響いてくるからだろう。彼女に断りもなくこうして眺めているのはフェアじゃない気がするものの、那月の眼はどうしても――横を向いた、流水を弾く春歌の細い肢体から離せなくなっていた。
湯に当たった肌は薄くピンク色に、どんどん春歌の真っ白な全身を染め上げていく。
きゅ、と小さな手が一度湯を止める際に、前のめりになった彼女の双つの乳房が弾むのを見て取った那月は、思わず立ち上がって……ほんの数歩進んだ先、バスルームの壁へ手をついた。
「………………」
濡らした髪を左肩に寄せ、シャンプーを手に出してそこへ絡ませて。くしゅくしゅと全体を泡立て、頭皮をゆっくりと揉み込む春歌のうなじを、白い泡がツッと流れていくのが見える。
ぎこちなく動く細い手が上下する度、濡れた体が淡い色の照明に反射してきらきらと眩しくて――春歌の小さな動き一つ一つが描く体の曲線の変化に、那月は自分の鼓動がどんどん速まっていくことを感じていた。
(……可愛い)
小さくて華奢で愛らしくて、触れれば柔らくて暖かくて。ひだまりを連想させる優しい香りに誘われるように、口をつけ、味わえば、どこまでも甘くて……そんな彼女が今、無防備に素肌を晒し、身を清めているのを目の当たりにして。
喉の渇きにも似た焦燥感が腹の底からせり上がり、那月は今すぐにでも彼女を組み敷きたい衝動にかられ、ぎゅうと握った拳をマジックミラーへ押しつけた。
「あ……」
そこで春歌の唇から小さくメロディが紡ぎ始められたことを、那月は敏感に察知する。
自身の内心がそのまま現れていたのか、初めはどこか落ち着きがなくリズムも不安定だったが……口ずさむ内に、気持ちが凪いだのか、少しずつ滑らかに、軽快に。
まだ那月が聞いたことのない、新しい音が彼女の内側から生み出されていく。
肌の上でスポンジが滑る度、ふわふわの泡が彼女の旋律と共に踊り、舞う。まるで白いドレスを纏っていくようで、けれどそのドレスはすぐに端からとろりと融けて、彼女の肢体に軌跡だけを残した。
小さな、小さな、今にも流水の飛沫にかき消されてしまいそうな。それでも確かに響いて、那月の心の奥底まで届けられた、彼女だけのメロディ。
「…………ッ!」
それが彼の胸をこれでもかというほどに、締め付けて。
那月はたまらない愛しさを覚え、ぶるりと体を震わせた。
愛しさがただただ、彼女を欲させて。下着の中で脈打ち、育ちきった性器が痛む。はぁ、と熱くなった吐息が、マジックミラーを曇らせる。
そうして劣情に神経を焼かれそうになりながら、那月は彼女がシャワーを浴び終えるのを見つめていた。
*
「ふぅ…………」
髪を、体を洗い流した春歌は、まとめた髪束を絞って水気を飛ばし、一つ大きく深呼吸した。
全面鏡ばりの浴室には気が散ってしまうし、ここを出た後、那月との……そういった行為を想起してしまう自分の思考が恥ずかしく、緊張もしてしまい。
どうにか気分を落ち着かせようと、今作っている最中の楽曲を口ずさむことで、少しだけ平静さが戻ってきたように思える。春歌は立ち上がってアメニティを片づけるか迷い、那月も使うだろうと並びを整えるだけにして、バスルームを出た。
備え付けのバスタオルを使って全身を拭き、一旦ショーツを履き、またバスタオルを体に巻き付けたところで……ドライヤーを使うか悩む春歌に、ドアの開閉音が届き、彼女は飛び上がるほどに驚いてしまう。
「きゃっ!? なっ那月くん……!」
タオルに包まれているから見えないのだが、春歌は突然のことに片手を胸に、もう片手を足の間に当てる。
そんな彼女を、無言で見つめる那月は少し頬を赤らめていて……レンズ越しではない緑色の眼を、ほんのりと潤ませて。
一度唇を引き結び、クンッと眉間に皺を寄せたかと思うと、春歌の傍に寄り、屈んで。
彼女の耳元で、小さく囁いた。
「――ベッドで待ってて」
熱く、低くかすれがちな声音で。吹き込まれるような、誘いの言葉に。
春歌は、ぶわりと背中を走った電流のような性感に堪えきれず、そのままバスルームを飛び出していった。
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2011.9.17