NOVEL | ナノ

 同じことをくりかえしてばっかり

「おかしい…」

アパートまでの帰り道。ぽつりと呟いた俺の独り言に、隣を歩くのだめが「はい?」と小首を傾げた。ぱちりと大きな瞳を瞬かせて、俺の顔を覗き込むようにして見上げてくる。アヒルみたいに唇を突き出すのはいつもののだめの癖で、それを見た俺の眉間の皺が自然と深くなったような気がした。

「…おかしいんだよ」
「何がデスか?」
「……なんで俺は、二人分の晩飯の材料を買ってるんだ?」

ふと気付いたこと。それはスーパーで買ったばかりの買い物袋の中に、間違いなく二人分の晩飯の材料が入り込んでいること。手元のそれを恐る恐るといった調子で覗き込めば、二匹の鰤とばっちり目が合った気がして、何だか妙な気分になった。俺はすぐにそれから顔を上げて、視線を正面に固定する。そんな俺の隣で、のだめはあへ、だなんて締まりのない表情になって、俺の腕に自分のそれを絡めると「それはですねー」なんて嬉しそうに口を開いた。

「先輩がのだめの夫だからデスよー」
「夫じゃねえ!」

ふざけんな!と鰤の入った方とはまた別の、日用品ばかりが詰め込まれた重い買い物袋でのだめを反射的に打ってしまえば、のだめは相変わらずの奇声を上げて頬を膨らませた。「ひどいですよ、先輩!」なんてぎゃあぎゃあ喚きながら、それでも尚俺の隣を着いてくるのだめに「ひどいんだろ。着いてくるな!」とぶっきらぼうに言えば、「そんなこと言ったってのだめの家は先輩のお隣デス!」とのだめは鼻息を荒くして食い下がってくる。はあ、と隠すこともしないで俺はあからさまな溜め息を零した。

「…千秋先輩、溜め息なんか吐いたら幸せ逃げちゃいマスよ。ただでさえ幸薄そうなのに」
「誰のせいだよ、誰の」

怪訝そうな顔で俺を見上げるのだめを睨みつければ、のだめは立ち止まってしゅん、と眉尻を下げた。そんなのだめを見るともう怒る気さえ起こらなくなって、俺は立ち尽くすのだめを置いて無言で歩いた。するとやがて少し小走りになって俺の隣に戻ってくるのだめ。ついさっきまで沈んでいたくせに、千秋先輩、歩くの早いデスよ、なんて言って、離れていたはずの腕を絡めなおしてきた。はあ、と零れる溜め息はすでに俺の癖みたいなもんだった。

「千秋せんぱーい」
「…なんだよ」
「明日の夕飯は何にしましょうかねー」

にこにこと締まりのない笑顔を浮かべて、そんなことを言うのだめ。おい、まだ今日の晩飯も食ってねえだろ。俺は呆れたように目を細めて、引っ付いているのだめの頭を小突いてやった。




同じことをくりかえしてばっかり

(いつの間にか当たり前になってた、のだめの分の晩飯を作ること)(いつまで俺はこの生活を続けていくんだ?)


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