きみのうた

最初に好きだと思ったのは、広い背中だった。


* * * * *


何度振っても諦めずしつこくプロポーズをしてくる馬鹿男から逃げていた途中で偶然出逢ったマルコは、いやな顔ひとつせず黙ってその広い背中であたしを守ってくれた。
正確には、何か云われる前に馬鹿男がさっさと逃げてくれたお陰だったのだけれど。
ともあれ、きっとあたしの第一印象はそうよくなかったと思う。
それでもマルコはあたしを守ってくれたし、あたしはマルコに感謝した。
だからこそ、働いてたバーでご飯をご馳走して、気合いの入れた踊りまで披露する気になったのだ。
結局、呆れられはしたものの、マルコは勝手にマルコを利用したあたしを怒らなかったし、そのあとも何度も店に足を運んでくれた。
最初はよっぽど料理と踊りを気に入ってくれたのかと思ったけど、どうやらあの馬鹿男があたしのところにやって来ないようにと見張っていてくれたのは、酔ったサッチに聞いたからだった。
嬉しいと、思った。
好意を寄せられることは少なくなかったし、馬鹿男のようにプロポーズをしてくる男もたくさんいた。
でも、そのどれも、嬉しいと思ったことはなかった。
もちろん好いてくれるのは嬉しいが、あたしなんか好きになる暇があったらもっと他の人を探せばいいと思う。
だって、あたしが振り向くことは絶対にないのだから。
けど。
マルコは、違った。
素直に、嬉しいと思った。


* * * * *


次に好きだと思ったのは、ぶっきらぼうな優しさだった。


* * * * *


柄じゃない、と思いながら、それでもマルコが店に顔を出してくれるのが嬉しくて、一週間もすると、マルコが来るのを心待ちにしている自分がいることに気付いた。
本当にあたしらしくない。
でも、どうしようもないのだ。
いつの間にか―――あたしは、マルコに惹かれてしまっていたのだから。
そして、たまたま店を早上がりした帰り道、ふらりと遠回りすると、同じようにふらりとしていたらしいマルコにばったり出くわした。
サッチやエースの絡み酒が鬱陶しくなって船を出てきた、なんてうんざりとした顔で云うマルコを、ならお茶でも、と家に誘ったのがそもそもの始まりだったんだろう。
この頃にはお互いにお互い、憎からず思っていることは勘付いていた。
とはいえ、お茶に誘ったことには、何の他意もなかった。
だから普通にお茶を出して、くだらない話、海の話、陸の話をして、そろそろ船の連中も静かになっただろうから、と席を立ったマルコを見送った。
見送った、玄関先で。
明日も店に来るのかと身を乗り出して訊いたあたしと、明日は親父も店に行きたがっていたと振り向いて云ったマルコの、距離が。
思いの外、近くて。


* * * * *


気付けば全部、好きだった。


* * * * *


びっくりしてお互い見事に固まって。
数秒後、磁石のように唇が触れ合ったのは、仕方のないことだったと思う。

それから、いろいろあってマルコに誘拐されることになって、まぁいわゆる恋人関係になってからは何度も何度も数え切れないほどのキスをしたけれど、あたしには、あの、初めて交わした触れるだけのキスが一番。






忘れられないキス




(呼吸を奪われるようなキス)

(啄むようなキス)

(額や頬へのキス)

(だけどやっぱり)

(今、思い出しても胸がギュッとなるのは)







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企画LOVE!様に提出。
素敵企画をありがとうございました!
こんな素敵な企画に参加させていただけて幸せでした。
ありがとうございました!

20101125 きみのうた haya.


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