見惚れて溺れて花になって

「水仙?」

声に振り向くと、いつもの微笑みを湛えてこちらへ歩いてくる知り合いのくのたまがいた。

「そうだ。学園長先生の庵へ届けるところなんだが、欲しいなら少しやるぞ」
「ううん、ありがとう。仙蔵に似合うねと思って、その花」
「褒め言葉……と受けていいのか」
「もちろんよ。今にも水仙になっちゃいそう」

どういう意味だ。聞くと、先日図書室に入ったらしい南蛮の本に昔話があったのだと言う。なんでも、自らの姿に見惚れすぎて水仙になった美少年がいたとか。褒められているのかいないのか、よく分からなくなってくる話だった。
私は感心半分戸惑い半分で、取り敢えず思ったことを口にする。

「それなら、私よりも四年の滝夜叉丸の方がそれらしいのではないか?」
「そうかも。でも、仙蔵だって自分のこと好きでしょう?」
「そう見えるか」
「うん。自分可愛さでわたしに何も言わないんだものね。ああひどい人。うふふ」

ぴん、と。私たちの間の糸が張った。もっとも、そう思ったのはきっと私だけだろうが。
言葉とは裏腹に楽しそうな彼女は、綺麗な顔で笑っている。

「どういう、意味だ?」

こいつと話していると、私は質問してばかりだな。それほどに読めない。
いつだって、この女の言うことは私には分からない。

「だからね、わたしのことも可愛がって。って意味」

彼女に見惚れすぎた私は、どんな花になるのだろうか。


20190203
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