予告

愛してると突然言われたその時、驚きのあまり言葉をなくした。相手は自分の反応をみて本当に気づいてなかったのかと声をあげる。いや、気づいていませんでしたけど。

「驚いた、伊作がそんなに鈍いなんて」
「え、えーっと」

目を丸くするその表情は嘘を言っているようには見えない。本心を隠すのが忍だが、それを探るのもまた忍。判断を誤ってはいない……と思う。現実味がなさすぎて疑ってかかりたいのが本音だけれども。
とりあえず、すりこぎを握る手の力を抜いて姿勢を正す。とてもじゃないが作業どころではなく、急にいつもの医務室が落ち着かない。しかし本来ここに縁のないはずの彼女は今保健委員長である僕以上に寛いでいるらしく、無造作に崩された足や装束の端を弄る手もいたって自然体だ。

「これじゃあ答えを期待するだけ無駄みたいね。あーあ」

あーあって。未だに言葉が出てこない僕をよそに彼女は楽しそうに笑った。告げた思いがうまく受け取られなかったのに、それにしてはあっけらかんとしている。何を考えているのか全然わからなかった。

「……君は」
「うん?」
「僕のことをその、そういうふうに思ってるの」
「うん。思ってるよ」
「い、いつから」
「教えてあげない」

僕はひどく緊張していた。本当に、実際に言葉にしてぶつけられるまで何ひとつ気がついていなかったのだ。だけど、でも、今はどうだ!芋づるのように引っ張り出されてくる知らない感覚が僕の中をみるみるうちに満杯にして、まるでさっきまでの自分とは全く別の人間になってしまったようだ。混乱を極めた頭でかろうじてわかったのは、今僕は目の前の女の子を強烈に意識しているっていうことくらいで、それすらも実感は追いつかない。
そっと様子を窺おうとすると、逆にじっと見つめられていることに気がついた。圧をかけられているわけでもないのに、光を取り込んできらきらしている瞳に引き止められて目を逸らせない。そのままどのくらい経ったろうか、とにかくじりりと穴でも開きそうな心地が続いた。終わらせたのはやはり、向こうだった。

「期待するだけ無駄って言ったけど、取り消すわ」

満足気にそう言って立ち上がった彼女は、それはそれは可憐に笑んだ。僕はそれを見上げて、こんなことありきたりすぎて恥ずかしいけれど、花のようだと思ってしまったのだ。馬鹿みたいに舞い上がっているだけだったとしても、きっと答えはそう遠くないところに埋まっているような気がして、僕は。

「ねーえ伊作、わたしってまだ見込みあるかしら」
「今度はきっと僕が追いかけるよ」

精いっぱい笑い返すと、彼女は一瞬きょとんとしてからこくりと頷いて「はやく捕まえてね」と嬉しそうに言った。


20220516
冒頭は診断メーカーより
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