鮮やかなひび

好きになった人が自分のことを好きになってくれる目は、果たしてどのくらいあるものだろうか。賽でも転がしてみれば仕方がなかったと諦めがつくだろうか。こうして姿を見つけて足を止めてしまうくらいには、未練たらたらなのに。

「不毛……」
「何が?」

ため息と一緒に漏れた言葉は紛れもない本音だった。だから、まさかそれを拾われてしまうだなんて、こんな居心地の悪いことってない。さいあく。

「ねえ、人の背後取るのって楽しい?」
「え、なに、そんなに機嫌悪いの?」

生憎とその通りです、という意味を込めて思いっきり眉間にしわを寄せて見せる。ふらりと現れた尾浜勘右衛門は、本当になんの気なしに声をかけてきたのか若干面食らっているようで、その素直な表情がわたしを少し冷静にさせた。

「……ごめん、八つ当たり」
「おお、いーよいーよ」

尾浜はまるで気にした風もなく笑う。相変わらず気のいい男だ。そのまま去ってくれれば満点だったのに、自然とわたしの隣に並んできたから落第。尾浜はわたしの視線の先にあったものを探しているようだった。

「六年生の先輩方か」
「……」
「七松先輩……ではないな、じゃあ善法寺先輩?も違う気がするなあ」

わたしはさっき自分で思った「気のいい男」を撤回すべきかどうか悩んだ。そもそも尾浜ってこうやって知り合いの私的な部分にまで不用意に踏み込もうとする人だったっけ。鉢屋あたりなら、すぐに調子に乗るからあり得るけれど。
わたしがななめ少しだけ上にある横顔からその真意を探ろうとしたのと、尾浜が「あ」と声を上げたのはほとんど同時だったと思う。
どきり。変に動いたのはきっと、心臓だけだったと思う。身体にも顔にも出さなかった。だから、尾浜にわかるはずないのに。こっちを見て視線を合わせてきた彼は、全部まるっとお見通しとそのほっぺたに書いてあるかのようだった。

「心配しなくても、からかってやろうってわけじゃないよ」
「忍たまがそんなこと言うんだ」
「俺たち友だちだろ」
「そうだっけ?」
「うーん、いつからこんなになったんだか」
「なに?わたしのこと言ってんの?」
「そうだよ」

決定打だった。わたしは言うべきことを探して、見つけられなくて、押し黙ることしかできなかった。意地が悪いし、わざとらしいし、気遣いの精神が欠如してるけど、それでも。尾浜の言っていることは、どうしようもないくらいにぜんぶ図星なのだ。

「わたしだって、知りたいよ」

絞り出した声はとても小さくて、わたしの弱さの証拠だった。

「……ねえ、泣いてんの?」

うるさいまだ泣いてないと呟いたのは尾浜に届いたのだろうか。そんなこと、どうでもいいか。わたしは情けなさに歯を食いしばった。もうやだ、一人になって思いきり泣こう。
そう思って全力でこの場から走り去ろうとしたのに。ああもう、最悪だ。

「ごめん」

後ろから強引に手を引っ張られて体勢を崩したわたしを、受け止めたその人は迷いなく捕まえた。それは、何の「ごめん」なんだろう。

「はなしてよ」
「無理」
「なんでほっといてくれないの」
「……ごめん」
「なんで」

そっちまで泣きそうな顔してるの、という言葉は喉の奥に絡まって詰まった。
なんなの、ほんとに、わけわかんない。


20220625
タイトルをフォロワーさんからお借りしました
ありがとうございます
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