世界が小さな終わりを迎えるとして

「友だちでいようね」だなんて生温いせりふを口にする人間が、この学園にいるとは思わなかった。呆れるでもなく、軽蔑するでもなく、ただ僕は驚いていた。
そりゃまあ、長いこと同じ場所で生活していれば、友と呼べるような関係にもなる。それはそうだ。でも、だって、「友だちでいようね」だ。「これからも」や「ずっと」がくっついている言葉なのは明白だ。僕たちは、少なくとも君と僕は、本気で忍者を目指しているんじゃなかったっけ。
桃色の制服の膝を抱えた彼女は、ただ黙って目の前にこんもりと積もった土を見つめているだけだ。思わず手を止めてまじまじと見上げた僕のことなんて、まるで目に入っていないみたい。なんなの、それ。

「ねえ、ちょっとどいて」
「うん」

ちょっと刺々しい声だったかな。でも君のせいだ。僕はすっかり穴堀り用のやる気を削がれてしまった被害者なのだから。
僕は、えいやっと掘りかけのターコちゃんをよじ登り、素直に移動した彼女の横に座った。今度は僕の目の前に土山があって、彼女の前には見つめるものは何もないけれど、彼女はぼんやりと虚空に視線を投げていた。
僕はなんだか無性にむかむかしてきた。あるいはもやもやしているのかもしれない。とにかく、彼女がこれ以上勝手に押し黙っているのは我慢がならなかった。なんて自分勝手なんだ、君は。

「あのさあ、さっきのはどういう意味なわけ?」
「さっきの……」
「だから、友だちでいようねっていうやつ」
「ん、わかってるよ。ごめん、急に変なこと言ったよね」
「謝ってなんて言ってない」
「……ごめん」

横に座ったのは失敗だったかもしれない。どうせなら、向かい側に座ればよかった。そしたら彼女の目を見つめられたのに。
嫌な噛み合わなさだった。頭の隅でがんがんと鐘が鳴っている。今掴まなかったらもう二度と手が届かなくなるんじゃないか、そんな焦燥感が駆け足でやってきてくらりと視界を揺らした。

「あー、ねえ」
「あのねっ、本当は……本当は、わたし、もう」

僕を遮り堰を切ったように溢れた言葉は、しかし一瞬でかき消えていく。彼女はまだ何も言えてない。僕に何かを伝えようとして、失敗しただけ。だのに、頭の中に浮かんだ可能性がまさに答えだったと察するにはそれで十分すぎた。なるほど、よくあることだ。こんなに最悪な関わり方になるとは思ってもみなかったけど。
つまり僕は、今ここで全力を出さなくちゃけないってことだ。第六感は正しく警鐘を鳴らしていたのだ。

「いいよ、友だちでいよう」
「え?」

見ろ、見ろ。こっちを見ろ。お願いだから。僕はあらん限り念じて、語気を強める。

「だから、友だち。僕と君は友だ」

そして、彼女の視線はゆっくりと手繰り寄せられた。我慢できずに伸びた腕が、そっと彼女のそれに触れた。ああ、この瞬間がどんなに特別なものか、僕はずっと知らずにいたんだな。

「ねえ、いつか友でいられなくなっても、僕は君を離さないけど。……それでもいい?」


20201021
ジャベリン
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