浪漫飛行

今日はそういうことになるだろうという気はしていた。順調に仲は深まっていると思うし、もう子どもでもない。何より、今夜は満月。忍者は御役御免の夜。
でも結局、わたしはいざという段になってだめで、昼間頭の中で練習したのの一割も思い通りに振る舞えないのだった。

「あなたが決めてよ」

流れ落ちるわたしの髪が作る影で、尾浜の顔のあたりは暗かった。

「俺のせいにするの?」

暗かったけれど、その中でふと目元を緩めたのだけはわかってしまった。お日様の匂いのする布団に身を沈め、わたしを見上げる姿のなんと明るいことか。それは錯覚で、わたしがまだぐずぐずと昼にしがみついているだけだ、というのも冷静な方の自分は理解しているのだけれど。
なんだか恥ずかしくなってふいとそっぽを向いた。しかしわたしの顔は、まる見えだろう。
どうせなら互いに何も見えなかったらよかったのに。無駄に明るい月を恨んで気を紛らわそうとしても、到底無視できなかった焦りと緊張が惨めさを呼び起こす。ずるいことを言ったという自覚は、ある。

「……悪かったわね」
「いや、いいんじゃない」

「え?」と聞き返そうとした声は呑み込まれ、わたしは呆気なく肘を折って倒れ込んだ。驚きに目を見開きかけて、慌てて思い直し固く瞑る。
我が物顔で口内を蹂躙する舌に全てを引きずり出されてしまいそう。怖い。気持ちいい。怖い。もう頭の中もぐちゃぐちゃだ。
うなじに添えられた左手がゆるゆると動くたびに、背筋を雷神様に擽られたような感覚に襲われる。逃げ出してしまいたい、そう怖気づいた途端、お見通しとでも言わんばかりに布団を掴んでいた手をしっかりと絡め取られた。
わたしはまるで激流に揉まれる木の葉のようで、為す術などないのだった。
どれだけ経ったかなんてわかるわけがない。ようやく解放されて震える目蓋を押し上げると、弾みでひとしずく、彼の頬へと落ちていった。
かろうじて上体を起こしているものの、体重を支えている右腕は限界を訴えていて、左は相変わらず捕らえられたまま。うなじを撫ぜていた尾浜の手は、いつのまにか腰あたりに移動して巻きついていた。

「俺のせいにしなよ」

てらりと月の光を跳ね返す唇から視線が動かせない。低く濡れた声に、下腹の奥が熱く甘く疼いた。


20200206
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