しかし愛

平行線もいつかは交わるらしい。
くのいち教室六年生のわたしと、忍たま六年生の立花仙蔵。水と油の関係だったわたしたちは、卒業を間近にした今頃になって和解をした。正しくは、お互いに意地を張らなくなったと言うべきか。
顔を合わせるたびに行われていた嫌味の応酬も、一旦やめてしまえば、必要でも何でもなかったのだと気がついた。仙蔵はあれで優しいところのある男だと思う自分を殺すのもやめた。そして相手もまた同じような心持ちであるのだということを知り、なんとも扱いに困るむずむずを抱えてわたしたちはようやく一生懸命に向き合うことを始めている。
わたしと仙蔵の不仲っぷりというのは文次郎と留三郎のそりの合わなさに並んで周知されていたものだから、急に和解なぞしたらさぞかし驚かれるだろうと思っていたのだが、予想に反して周りはごく自然にこの変化を受け入れた。時たま一年生が不思議そうに首をかしげることもあったが、そうすると大抵誰かしらが割って入ってきて、次にその一年坊主と会った時にはもうけろりとしているのであった。
気を使われているのは一目瞭然だが、しかしそれを居心地悪く思う猶予すらないのもまた事実。わたしたちは開き直って、ありがたく配慮されていた。
今日だってほら、作法委員会の活動日であるにも関わらず委員長様はこんなところで油を売っている。

「ねえ、卒業後はどうするの」
「無論、就職だ。とりあえずは大人しく城に仕えて世の中を見極めるさ。お前は?」
「わたしは実家に戻る。家業を手伝って……でも、先輩に伝手があるから忍者の仕事も斡旋してもらうつもり」
「そうか」

会話は続かない。互いが何を考えているかがわかってしまって、でもそれに確信を持てるほど自分を信じられなくて。
でもこのまま卒業してしまうのは嫌だった。少なくとも、わたしは。

「もう共に過ごす日々はないのかしら」
「世は乱れるばかりだからな。天下太平が実現したら、あるいはそういうこともあるかもしれんが」
「それって、いつなの」
「知るものか。十年後か二十年後か、あるいは百年後か」
「無責任」
「責任を持てという方が酷だろう」
「……わかってるけど」

仙蔵は柳の眉をきゅっと寄せてわたしを見た。そんな顔をしないでほしい。わたしだって、現世にはどうしようもないことが山ほどあるのなんて先刻承知だ。だけれど、わたしの胸を打ってやまないこの衝動もまた「どうしようもない」のだ。時代に呑み込まれ大人しく犠牲になるなんて御免こうむると心が叫ぶ。

「そういえば、嫁ぎ先はないのか」
「縁談話は全部実力行使で断ってきたから」
「それならお前、もし」
「……なに?」

からからに乾いた喉からは、掠れ声を絞り出すので精いっぱいだった。

「……いや、なんでもない」

絡まっていた視線がふっと外される。あまりにも呆気なくて、苦しくて、空しくて、悲しくて、哀しくて、愛しくて。指先からじわじわと死んでいくような心地がした。
ねえ、どうして言ってくれないの。わたしは百年も待っていられないよ。


20190820
診断メーカーより
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